抄録 |
症例は59歳, 男性。若干の知能発達障害があり施設入所中であった。2012年4月11日、朝から間欠的に起こる腹痛と嘔気のため救急外来を受診した。腹部X線では二ボーを認め腹部CT所見とあわせて腸閉塞と診断された。さらに腹部CTにてS状結腸の右鼠径部への嵌入と膀胱の一部が右鼠径部へ突出し陰嚢まで達している像が認められ、右鼠径ヘルニア(陰嚢膀胱ヘルニア合併)と診断された。救急外来受診時、本人が外科手術に同意しなかったこともあり、一般内科医がイレウス管を挿入し一晩経過をみて、翌日消化器内科にコンサルトとなった。イレウス管挿入後症状(腹痛と嘔気)は軽減していた。第6病日にはイレウス管を抜去、食事摂取可能となったため本人の希望をいれて一旦退院となった。外来で経過観察していたが4ヵ月後に夜間に急な腹痛を訴え、再び救急外来を受診。ヘルニア嵌頓が考えられたため、治療(手術)目的で他院外科に転院となった。膀胱ヘルニアは欧米では成人鼠径ヘルニアの1~4%にみられるとされているが本邦での報告は100例未満と比較的まれである。鼠径ヘルニア嵌頓と膀胱ヘルニアの同時合併例は極めてまれで、医学中央雑誌にて検索した限りでは2007年に田中らが報告した1例のみであった。膀胱ヘルニアの症状は二段排尿、頻尿、排尿困難などがあるが下部尿路症状がみられない症例も多い。画像診断で偶然発見されるものや、手術中に膀胱損傷で発見されるケースも認められることから膀胱ヘルニアは鼠径ヘルニアに合併しうる病態であることを認識しておく必要があると思われた。 |