抄録 |
症例は56歳、男性。右側腹部の違和感を主訴に近医受診しCTで肝腫瘤と後縦隔腫瘤を指摘され当科初診。家族歴:父と姉、父方祖母にサラセミア。生活歴:焼酎 1合/日、喫煙 20本/日。既往歴:20歳時にサラセミアの診断で脾摘、その後長期的な通院なし。輸血歴なし。現症:結膜に貧血と黄疸を認める以外特記所見なし。検査所見: Hb 8.6 g/dl, MCV 77.3 fl, Plt 44.6万 /μl, 網赤血球数 4.0%, Alb 4.4 g/dl, T.bil 3.2 mg/dl, D.bil 0.6 mg/dl, AST 54 IU/l, ALT 76 IU/l, LDH 168 IU/l, ALP 491 IU/l, γGTP 48 IU/l, Glu 98 mg/dl, 血清鉄 219 μg/dl, TIBC 230 μg/dl, UIBC 11 μg/dl, 血清フェリチン 3157 ng/ml, PT 62%, HBsAg(-), HBcAb(-), HCVAb(-), AFP 2701 ng/ml, PIVKA-II 56158 mAU/ml、ヘモグロビン分画:Hb-A 87%, Hb-A2 8%, Hb-F 5%、CT:背景肝のCT値は著明に上昇。S4/5を主として肝両葉に低吸収腫瘤を認め、造影早期相で背景肝に比し等吸収、平衡相で低吸収を呈した。EOB-MRI:T2強調像で背景肝の著明な信号低下を認め、肝内腫瘤は早期濃染を示した。骨髄シンチグラフィ:後縦隔の両側傍椎体腫瘤は塩化インジウム(111In)の取り込みを認め髄外造血巣と診断した。臨床経過:経皮的肝針生検により中分化肝細胞癌と診断し肝動注化学療法を開始した。肝非腫瘍部は肝細胞内に高度のヘモジデリン沈着を認めヘモクロマトーシスと診断した。サラセミアに関しては当科初診以前の経過から中間型サラセミアと考えられた。考察:中間型サラセミアは続発性ヘモクロマトーシスを呈するため、1) 肝発癌の高リスク群としての経過観察が望ましいと考えられる。2) 経口鉄キレート剤 deferasiroxは肝内鉄濃度低下させるため、肝発癌予防に寄与する可能性が考えられ、本邦においても「輸血非依存性サラセミアの慢性鉄過剰症」への適応拡大が望まれる。 |