セッション情報 特別企画「若手臨床医による消化器疾患の病態ならびに治療に関する基礎研究」

タイトル SP-05:

Trk(tropomyosin-related kinase)阻害剤は肝細胞癌株に間葉上皮移行(MET)を誘導する

演者 安倍 満彦(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門)
共同演者 古賀 浩徳(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 吉田 隆文(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 増田 裕(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 坂田 雅浩(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 池園 友(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 中村 徹(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 谷口 英太郎(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 川口 巧(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門), 矢野 博久(久留米大学 医学部 病理学講座), 鳥村 拓司(久留米大学 先端癌治療研究センター 肝癌部門), 佐田 通夫(久留米大学 医学部 内科学講座 消化器内科部門)
抄録 【目的】肝細胞癌(HCC)に対して分子標的治療薬が導入されて数年が経過した。ただし、同薬が適応となる進行HCCに対する治療効果は決して満足いくものではない。肝硬変が背景にある状況では肝予備能の低下や再発が問題となり、様々な治療の後に治療抵抗性になる場合が多い。そこで、新たな分子標的薬の登場が期待されるが、現在までにsorafenibの効果を凌ぐ薬剤は報告されていない。今回我々は、HCCの悪性化に関わる上皮間葉移行(EMT)に関連し、かつ肝臓領域では報告が少ないneurotrophin受容体(TrkBなど)のシグナルに注目し、Trk阻害剤によるHCC株の形態や増殖に対する影響およびEMT関連蛋白の発現に関して検討した。【方法】ヒトHCC株であるHAK-1A, HAK-1B, KYN-2, Huh7を使用した。Trk阻害剤であるK-252aで各々の細胞株を刺激し、位相差顕微鏡にて形態変化を確認し、免疫細胞化学染色やウエスタンブロットで蛋白レベルの変化をみた。さらに、real-time RT-PCRでmRNAの発現をみた。細胞増殖アッセイでK-252aの増殖に対する影響を確認した。【成績】K-252aを各々の細胞株に加えて24時間後の形態は、程度に差があるものの、いずれの細胞にも変化を認めた。特に間葉系細胞に近い形態のHAK-1Bでは、紡錘形から上皮細胞様に変化していた。ウエスタンブロット解析では、いずれの細胞株でもK-252aによってEMT誘導因子E2Aの発現が低下していた。一方、E-cadherinに関しては、Huh7以外の細胞株で発現が上昇していた。さらにreal-time RT-PCR解析では、いずれの細胞株でもK-252aによってE2A mRNA発現の低下およびE-cadherin mRNA発現の上昇を認めた。K-252aによる細胞増殖への影響に関しては、高分化型HCC株であるHAK-1AとHuh7では増殖が抑制され、一方、低分化型HCC株であるHAK-1Bでは増殖は抑制されなかった。【結語】Trk阻害剤であるK-252aによってHCC株にMETが生じることが分かった。TrkBシグナル系が進行HCCに対する新たなターゲットとして、あるいは悪性化のバイオマーカーとして活用できる可能性が考えられた。
索引用語 Trk阻害剤, MET