セッション情報 特別企画「若手臨床医による消化器疾患の病態ならびに治療に関する基礎研究」

タイトル SP-02:

慢性炎症から発癌へ:消化管におけるmiRNA発現異常解析

演者 松島 加代子(長崎大学消化器内科)
共同演者 磯本 一(長崎大学消化器内科DELIMITER長崎大学病院光学診療部), 卜部 繁俊(長崎大学消化器内科), 福田 浩子(長崎大学消化器内科), 橋口 慶一(長崎大学消化器内科), 庄司 寛之(長崎大学消化器内科), 南 ひとみ(長崎大学消化器内科), 赤澤 祐子(長崎大学消化器内科DELIMITER長崎大学病院光学診療部), 山口 直之(長崎大学消化器内科), 塩澤 健(長崎大学消化器内科), 大仁田 賢(長崎大学病院病理部), 中山 敏幸(長崎大学病院病理部), 林 徳真吉(長崎大学病院病理部), 竹島 史直(長崎大学消化器内科), 中尾 一彦(長崎大学消化器内科)
抄録 【目的】microRNA(miRNA)は18~25 塩基からなるnon-coding RNA で,主に3’非翻訳領域に相補的に結合し標的messenger RNAの翻訳阻害により蛋白発現を制御する.miRNA は組織特異的な発現パターンを示し,その発現異常は様々な疾患の発症や病勢に関与している.炎症性発癌をきたす種々の消化器疾患においてもmiRNA発現変動が大きく寄与している可能性があり,逆流性食道炎,慢性胃炎,潰瘍性大腸炎についての研究結果を報告する.
【方法】研究1:逆流性食道炎において前胃を結紮した逆食ラットモデル(n=10)を作成し、コントロール群(n=5)の食道下端より採取した粘膜組織から抽出したRNAを用いてmiRNA発現をマイクロアレイで網羅的解析した。逆食モデルの粘膜欠損部と非病変部において,IL-1β,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカイン発現量をqRT-PCRで比較した.研究2:H.pylori(HP) 陽性者・陰性者の胃前庭部胃粘膜より採取した組織からRNAを抽出し,マイクロアレイとqRT-PCR法を用いて,HP感染におけるmiRNA発現変動を検討した.研究3:潰瘍性大腸炎(UC)患者9例から病変部と非病変部(口側),健常者3例の直腸粘膜より組織採取,抽出したRNAを用いてマイクロアレイで発現比較を行った.
【結果】研究1:逆食モデルでは,コントロールと比較し8種のmiRNAが高発現し,16種が低発現であった.IL-6,TNF-α, MCP-1,INF-γは逆食モデルにおいて有意に高発現であったが,病変部・非病変部間では発現に有意差がなかった.研究2:HP 感染の有無により31 種のmiRNA において発現の差異がみられた.多くのmiRNA においてHP菌量や胃炎の活動度と相関がみられ,除菌によって発現の回復がみられた.多種癌で低発現が知られるlet-7はHP陽性者においても低発現であった.研究3:UC炎症部は非病変部との比較では、19種miRNAが低発現,5種が高発現であり,UC健常者との比較では24種が低発現,8種が高発現であった.miR-155やmiR-223などは研究2の結果とも共通してmiRNAの高発現を認めた.
【結語】慢性炎症では消化管粘膜における種々のmiRNA発現異常を惹起し,発癌に関与するmiRNAも含まれることが示唆された.
索引用語 炎症性発癌, miRNA