共同演者 |
小坂 聡太郎(大分大学消化器内科), 勝田 真琴(大分大学消化器内科), 岡嶋 智也(大分大学消化器内科), 衛藤 孝之(大分大学消化器内科), 園田 光(大分大学消化器内科), 橋永 正彦(大分大学消化器内科), 岡本 和久(大分大学消化器内科), 小川 竜(大分大学消化器内科), 中川 善文(大分大学消化器内科), 沖本 忠義(大分大学消化器内科), 兒玉 雅明(大分大学消化器内科), 村上 和成(大分大学消化器内科) |
抄録 |
【背景】非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はH.pyloriと並ぶ消化管粘膜傷害の原因であり、現在一部の薬剤では予防投与が保険収載されている。今回我々は、高齢者におけるNSAIDs起因性消化管粘膜傷害の実態と、予防の啓蒙について検証した。【方法】対象は当院でNSAIDsを処方された患者のうち、当院で上部消化管内視鏡検査を実施した744例。75歳以上を高齢者と定義し、対象を高齢者群と若年者群に群別した。両群の粘膜傷害を粘膜萎縮, びらん, Modified Lanza Score(MLS)で比較検討した。萎縮は木村・竹本分類でC-3以上の萎縮を粘膜萎縮とした。また高齢者群の粘膜傷害予防をPPI内服群(P群), COX-2選択的阻害薬内服群(C群), その他の群(O群)に群別し、各群の粘膜傷害発症率を比較した。さらにNSAIDs内服症例において、どのような胃粘膜予防がなされているかを年次ごとに調査した。【結果】744例中若年者群は492例, 高齢者群は252例であった。若年者群では粘膜萎縮 308例 (63%), びらん 86例 (17%), MLS 3点以上 79例 (16%)であったのに対し、高齢者群では粘膜萎縮 216例 (86%), びらん 68例 (27%), MLS 3点以上 56例 (22%)と有意に高かった(粘膜萎縮 p<0.0001, びらん p=0.0030, MLS p=0.0444)。また高齢者群の予防薬別の粘膜傷害出現率はびらんがP群 143例中 33例 (23%), C群 26例中 2例 (8%), O群 83例中 33例 (40%)でO群と比較し、P群, C群は有意に粘膜傷害を予防していた(P群 p=0.0099, C群p=0.0017)。NSAIDs内服症例の予防薬でPPIや常用量H2阻害薬が処方されていた割合は、2008年は38%であったのに対し、2012年では78%に上昇していた。【考察】高齢者では粘膜萎縮をきたした症例が多く、H.pylori感染者が多いことが示唆され、NSAIDsの内服で、粘膜傷害の割合が増加したことが予想される。消化性潰瘍診療ガイドラインで推奨される胃粘膜傷害予防薬は、他の胃粘膜改善薬と比較し、明らかに胃粘膜傷害を予防していた。今回の予防薬の変遷は、NSAIDs起因性胃粘膜傷害予防が徐々に周知されてきたことを示唆していた。 |