抄録 |
【はじめに】大腸癌肝転移は一般的に膨張性,置換性の発育をきたし,胆管浸潤をきたす例は少ない.大腸癌肝転移が胆管浸潤する形式としては,胆管上皮を置換性に進展し,その一部が胆管内に発育すると考えられている.今回われわれは,肝内胆管癌と術前診断し,肝切除術を施行したが,病理組織学的検査で直腸癌肝転移と診断された症例を経験したので報告する.【症例】78歳,女性.2010年2月に,便秘を主訴に受診した他院で,直腸癌(Rs)と診断され,高位前方切除術を施行された.最終病理診断は高分化型腺癌,ss, ly0, v0, N1; StageIIIaであった.術後補助化学療法としてUFT内服を継続していた.2011年8月のCTで肝S7にcm大の転移を疑う病変を指摘され,2012年1月からmFOLFOX6を6回施行された.転移巣の切除目的に2012年5月に当科を紹介された.腹部造影CTではS7の1mm大の腫瘍から右肝管前後合流部まで連続した胆管内腫瘍栓を認めた.胆管擦過細胞診ではClassV, adenocarcinomaの診断であり,肝内胆管癌の術前診断で,肝右葉の門脈枝塞栓を行った後に,2012年7月,肝右葉切除術,胆嚢摘出術を施行した.切除標本の割面では,後区域胆管内に粘液様の腫瘍栓を認めた.最終病理診断は,直腸癌の原発巣と組織像が類似していること,免疫染色でCK20陽性,CK7陰性と腸型の特徴を示したことから,大腸癌の肝転移と診断した.【考察】一般に肝内胆管癌は浸潤性に発育し,肝細胞癌や転移性肝癌は膨張性に発育すると考えられている.膨張性発育を特徴とする肝腫瘍では,胆管内への腫瘍進展は稀であり,本症例のように胆管内腫瘍栓を認めた大腸癌肝転移を術前に診断することは困難であると考えられた.しかし,化学療法や手術の方針決定のためにも肝内胆管癌との鑑別は重要であり,今後の症例の蓄積が必要であると考えられた. |