セッション情報 会長講演

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COX-2の消化管粘膜における役割―NSAID潰瘍の病態と臨床―

演者 坂本 長逸(日本医科大学消化器内科学)
共同演者
抄録 私は1974年神戸大学を卒業後,1976年に神戸大学大学院医学研究科に入学し,消化器内科医としての臨床と膵臓の病態生理に関する研究を開始しました.大学院修了後カリフォルニア大学に留学し,膵臓のCCK,somatostatin受容体に関する研究で一定の成果を上げたのち,帰国後「胃潰瘍発症と修復」をテーマとして胃分泌と胃粘膜防御に関する研究を開始します.当初は胃腺を単離し,次いで主細胞を単離し,胃粘膜被蓋上皮細胞を単離培養しました.当時,プロスタグランジン(PG)の胃粘膜防御作用がin vivoにおける実験で示されており,その作用機序として私たちはPGの胃腺細胞への直接作用に着目し,PGが胃腺細胞内シグナル活性化を介して保護作用を有することを見出し,J Clin Investに報告しました.PG律速酵素がCOX-1,COX-2としてクローニングされると,異なる酵素がどのように異なる胃粘膜防御作用を示すのかを明らかにする実験で,きわめて明瞭な事実を潰瘍モデル動物で見出しました.通常胃粘膜には認めないCOX-2mRNA,COX-2蛋白発現が,潰瘍モデル動物では急性期潰瘍で認められ,同時にCOX活性が増加していました.COX-2発現とCOX活性増加の役割を明らかにするため急性期COX-2活性を選択的COX-2阻害薬NS398で抑制したところ,潰瘍治癒が遅延することを見出しました.その後,ヒト潰瘍底には極めて強いCOX-2発現が間葉系細胞,単球様細胞に認めるだけではなく,これら間葉系細胞には,VEGF,heregulinがCOX-2,PGに依存して発現し,潰瘍治癒に関与することを明らかにしました.本講演では私たちが行ったこれら一連の研究成果の一部を紹介する予定です.また,COX,PGの胃粘膜における役割を明らかにする過程で,消化器病学会の諸先輩,諸先生方とともにNSAID胃粘膜傷害に関する疫学研究を行うチャンスを得ることができました.本公演では,私たちが行ったNSAID胃粘膜傷害に関する疫学研究,無作為化比較試験やNSAID小腸粘膜傷害に関する臨床的取り組みも併せて紹介する予定です.
索引用語