セッション情報 特別講演1

タイトル SL-1:

シグナル伝達と細胞接着―研究の歴史と展望―

演者 高井 義美(神戸大学医学研究科生化学・分子生物学講座)
共同演者
抄録 細胞は細胞膜の接着分子を介して細胞外基質や他の細胞に接着して組織や臓器を形成・維持している.これらの細胞は細胞膜の受容体を介して細胞外の情報を受容して細胞内にシグナルを伝達し,特異的な機能を発現して応答している.このシグナル伝達と細胞接着の研究の歴史では,まずホルモンや神経伝達物質などの細胞外シグナル伝達物質が,次にサイクリックAMPやカルシウムイオンなどの細胞内シグナル伝達分子が同定された.引き続いてEGFやインスリンなどの細胞外シグナル伝達物質の細胞膜受容体や,インテグリンやカドヘリンなどの細胞接着分子が同定された.現在では細胞接着とシグナル伝達に関わるほとんどの分子が同定され,その機能や作用機構が解明されている.さらに,細胞接着分子と細胞膜受容体が複合体を形成して協調的に働くことで,細胞の運動や増殖,分化,生存など重要な細胞機能を制御していることも明らかになっている.その結果,内分泌疾患や循環器疾患など多くの疾患の発症・進展に関わる分子機構の理解が進み,すでにこれらの分子を標的とした診断法や治療法も開発されて臨床で使われている.一方で,がんの進展に関わる浸潤や転移,がん休眠の機構は十分には理解されておらず,依然がん治療は容易ではない.また,精神神経疾患では,発症・進展の機構が未解明な疾患が多く,診断法や治療法の開発も遅れている.私はこれまでシグナル伝達と細胞接着の研究に携わり,プロテインキナーゼCやRapやRabなどの低分子量Gタンパク質,細胞接着分子であるネクチンなど多くのシグナル伝達分子や接着分子を発見し,その機能や作用機構を解明してきた.これらの分子は他の多くのシグナル伝達分子や接着分子と協調的に働いて,種々の細胞機能を制御しており,またその異常が種々の疾患の発症・進展にも関わっている.本講演では,私共の研究成果を中心にシグナル伝達と細胞接着の研究の歴史を紹介し,現在なお治療が困難な疾患に対する新しい診断法と治療法を開発するための展望を述べたい.
索引用語