抄録 |
過去20年間に医師数は1.5倍に増えたにも関わらず,地方の医師不足は依然解消されていない.人口あたりの医師数は東北六県はいずれも全国平均を下回っており,その較差は近年むしろ拡大してきている.また,土地面積あたりの医師数は岩手県は全国2番目に少なく,東京都の1/100である.岩手県は広い県土に9つの二次医療圏を持ち,これを21の県立病院などの公的医療機関を中心に運営している.このような状況下で,東日本大震災を経験し,県民の医療環境を立て直すためにも,女性医師支援は重要な課題である.岩手県は,2005年に女性医師支援策を盛り込んだ医師確保対策アクションプランを策定し,医師の養成から県内定住まで支援する事業を開始した.この中で女性医師育児支援事業を岩手県医師会に,女性医師就業支援事業を岩手医大に委託した.育児支援事業として県医師会は,育児支援に関するアンケート調査から明らかになった多様なニーズに応じて,日常の保育は勿論のこと,緊急あるいは臨時の保育に関し,保育所の確保の他に保育施設への送迎や保育者の自宅派遣などの支援を行っている.一方,岩手医大は女性医師職場復帰研修事業のための研修機関として,専門研修と総合研修の二つのコースを設け,女性医師を受け入れている.また,岩手医大では,女性医の連携と育児支援・職場復帰支援事業のために,岩手医科大学医師会女性医部会を設立し,会員と女子医学生との懇談会や講演会,アンケート調査などの事業を行っている.女性医部会が医学生対象に行ったアンケート調査によると,専攻分野を選ぶに当たって,男子学生が自分の適正を中心に積極的に選択するのに対し,女子学生は将来のライフプランに合わない領域(診療科)を消去していく傾向が見られた.このことは,女子医学生にとって,将来の出産・育児が専攻分野選択に大きな影響を及ぼしていることを示しており,支援体制のさらなる充実とその啓蒙が課題と考えられる. |