セッション情報 シンポジウム1

消化管幹細胞研究の新たな展開

タイトル S1-3:

iPS細胞応用医学の現状と未来

演者 青井 貴之(神戸大学iPS細胞応用医学)
共同演者
抄録 人工多能性幹(induced Pluripotent Stem,iPS)細胞は,体細胞にいくつかの因子を導入し,特定の環境下で培養することで得られる多能性幹細胞株である.iPS細胞は,(1)生体を構成する様々な細胞に分化することができる能力,すなわち分化多能性と,(2)(1)の性質を保ちながら無限に増殖することができる能力,すなわち自己複製能を有している.加えて,iPS細胞は様々な患者あるいは健常者など,個性が判明している個人からの樹立が可能である.
iPS細胞の発明は,生命についての理解を前進させた生命科学史上の極めて重要な出来事として位置づけられる.同時に,iPS細胞は医学分野を中心とする実学への応用も大きく期待されている.iPS細胞という技術を応用という視点から俯瞰すると,主に以下の3つの道があるという事ができるだろう.一つは,iPS細胞そのものを用いるということである.iPS細胞を用いることで,健常な,もしくは病的な,様々なヒト細胞および組織を実験室の中で作りだすことが可能となる.健常なヒト細胞/組織を作出して移植医療(再生医療)に用いることも可能であるし,これを薬物の副作用を調べるアッセイに供することも可能である.また,病的なヒト細胞/組織をiPS細胞から作りだすことで,病態研究や治療薬探索をサンプルの量的制限なく行うことができる.もう一つは,上記のようなiPS細胞の応用のための研究を行うなかで見えてきた科学的知見を,iPS細胞研究という枠を超えて幅広い領域で活用することが考えられる.最近のiPS細胞研究に関する報告の中には,腫瘍学と関連づけられる可能性がおおいに期待されるものも散見されている.
さらに,iPS細胞という技術を,「特定因子の導入と特定の培養条件の組み合わせによって細胞の運命転換もしくは脱分化を人為的に誘導する」もしくは「ゲノムは保存しながらエピゲノムを人為的にリセットする技術」と捉え,このコンセプトをより多くの領域に展開させられる可能性も考えられる.
本発表では,iPS細胞を応用した医学研究の最近の知見について報告し,今後の展望について議論する.
索引用語