セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-2:

食道癌の発生・進展におけるグローバルDNA低メチル化の意義

演者 佐伯 浩司(九州大学消化器・総合外科)
共同演者 河野 浩幸(九州大学消化器・総合外科), 前原 喜彦(九州大学消化器・総合外科)
抄録 【背景】Long interspersed nuclear element-1(LINE-1)はゲノム全体にわたって存在する転移因子であり,そのメチル化はゲノム全体のメチル化の指標である.一方,癌の悪性度が高いほどLINE-1のDNAメチル化レベルが低下していることが種々の癌で報告されている.【目的】食道扁平上皮癌におけるLINE-1メチル化異常を検討し,癌の発生・進展における生物学的意義について明らかにする.【方法】2000-2010年に当科にて術前無治療で手術を行った食道扁平上皮癌105例を対象とした.癌部と非癌部のDNAをそれぞれバイサルファイト処理し,パイロシークエンス法にてLINE-1のメチル化解析を行った.メチル化レベルにより対象を高メチル化群と低メチル化群とに分け,さまざまな臨床病理学的因子との関連を検討した.p53のexon2-10の遺伝子変異解析をdirect sequence法にて行った.代表的な症例を用いてSNP-CGHを行い,染色体異常を検討した.【結果】癌部では非癌部に比してLINE-1メチル化レベルが有意に低下していた(p<0.0001).食道の非癌部におけるメチル化レベルと喫煙,飲酒暴露量は,それぞれ有意な逆相関を認めた.癌部におけるLINE-1低メチル化群では,リンパ節転移陽性例,脈管侵襲陽性例,病期進行例,p53変異陽性例の割合が有意に高かった.高メチル化群の5年生存率が61%,低メチル化群では33%と低メチル化群で有意に予後不良であった(p=0.0026).SNP-CGHデータから得られた染色体不安定性と低メチル化との間には有意な相関を認め,また低メチル化症例においては,p53,p16,MYC,CyclinD1,SOX2など食道癌の発生・進展に関わる複数の因子の遺伝子領域で染色体異常を認めた.【結語】食道癌においては,ゲノム全体の低メチル化によりゲノム不安定性が生じ,癌の発生と進展の両者に関与している可能性がある.
索引用語