セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-4[追]:

食道扁平上皮癌の増幅遺伝子SOX2はPTEN/AKT/mTORC1経路を介して腫瘍増殖を促進する

演者 玄 泰行(京都府立医科大学消化器内科)
共同演者 安居 幸一郎(京都府立医科大学消化器内科), 伊藤 義人(京都府立医科大学消化器内科)
抄録 【背景】食道扁平上皮癌(ESCC)の治療方法は限られており,依然として予後不良である.我々はESCCのゲノムレベルからの病態解明を目的にこれまで高密度オリゴヌクレオチドアレイによる網羅的な遺伝子解析を進めてきた.その結果,多分化能の保持に必須の転写因子SOX2がESCCで遺伝子増幅の機序で発現亢進していることを明らかにしてきた.SOX2はESCCを含む種々の癌で癌促進的に働くことが報告されているが,その機序については不明な点が多い.【目的】SOX2がESCCの腫瘍増殖を促進するシグナル経路を解明し,SOX2過剰発現ESCCにおける分子標的を明らかにする.【方法】SOX2が遺伝子増幅しているKYSE70,KYSE140細胞において,リン酸化蛋白アレイを行い,SOX2遺伝子増幅/過剰発現により誘導されるシグナル経路を明らかにした.またSOX2低発現細胞にSOX2を強制発現させた安定発現株を作成し,xenograft mouse modelを用いて評価した.【結果】KYSE70,KYSE140において,SOX2を抑制するとAKT/mTORC1経路が抑制され(p-AKT,p-p70S6K,p-4E-BP1,p-S6の発現は低下し),細胞増殖が抑制された.これらの細胞はLY294002(PI3K阻害剤)及びrapamycin(mTOR阻害剤)で濃度依存性に増殖が抑制された.一方,in vivoにおいても,SOX2安定発現株は,SOX2の発現上昇に伴ってAKT/mTORC1経路の亢進と腫瘍増殖の促進を認め,LY294002によりこれらの経路は抑制され,腫瘍増殖が抑制された.SOX2を抑制するとPTENが上昇することから,SOX2はPTEN抑制を介してAKT/mTORC1経路及び増殖を亢進していると考えられた.また,臨床検体における免疫組織染色でSOX2とp-AKTの発現は正の相関を認めた.【結語】ESCCにおいて,SOX2はPTEN/AKT/mTORC1経路を介して,腫瘍増殖を亢進させる.SOX2過剰発現ESCCにおいてAKT阻害剤やmTOR阻害剤が有効な可能性がある.
索引用語