セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-6:

胃内視鏡洗浄廃液サンプルを用いた胃癌の分子病態研究の新展開

演者 山本 博幸(聖マリアンナ医科大学消化器・肝臓内科)
共同演者 渡邊 嘉行(総合川崎臨港病院内科), 伊東 文生(聖マリアンナ医科大学消化器・肝臓内科)
抄録 消化管癌の分子病態解析研究は,いかに臨床応用できるかが重要になっている.我々は主に組織検体を用いた解析から胃癌における遺伝子異常を明らかにしてきた(NatureScienceNat GenetCancer Cell他)が,より実用化型研究にシフトし,内視鏡検査時の胃洗浄廃液を用いたDNAメチル化解析による胃癌遺伝子診断法を開発した(Gastroenterology他.欧州特許成立,日米他審査中).次世代シーケンスや各種オミクス解析法が著しく進歩しても,解析対象となる検体の選択が重要である.早期胃癌内視鏡治療前後の胃洗浄廃液サンプルを比較解析することは,背景粘膜等様々な要因によるバイアスを受けない極めて有用な方法であり,早期胃癌特異的DNAメチル化を明らかにすることにより胃癌分子病態の解明に生かす事とした.テストセット6症例(12サンプル)を対象に,網羅的DNAメチル化解析法であるMCA microarray法を用いて解析し,18の候補アレイプローブ(11遺伝子)を選出した.候補遺伝子のDNAメチル化を検証セット64症例128検体で解析するとともに機能解析を行った.治療前後に有意な差を認めた複数の新規遺伝子のうち,特に転写因子であるBARHL2遺伝子が注目された.BARHL2遺伝子は,分化度に関係なく高率にメチル化を認め,胃癌組織切片の免疫蛍光染色で,メチル化と発現の不活化との相関を認めた.胃癌細胞株においても同様の結果を認め,BARHL2遺伝子の過剰発現によりコロニー数の有意な抑制を認めた.従って,BARHL2遺伝子DNAメチル化は,胃発癌早期において重要であることが示唆された.我々のストラテジーでは,このように同定された遺伝子は,直ちに有望なバイオマーカー候補となりうる.また,「胃内全域の洗浄」により回収された廃液利用により,胃全体の情報を得ることができることからH. pylori菌同定・感受性診断への応用も可能である.個々の解析結果だけではなく,本研究から見えてきた胃癌の分子病態および研究戦略について論じたい.
索引用語