セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-8:

p53機能欠損大腸癌と癌微小環境

演者 林 義人(大阪大学消化器内科学)
共同演者 辻井 正彦(大阪大学消化器内科学), 竹原 徹郎(大阪大学消化器内科学)
抄録 【背景】大腸癌の多段階発癌説において,p53は粘膜癌より浸潤癌に至る過程で変異が認められることが知られている.近年,癌細胞を取り囲む微小環境が注目を集めていて,既に大腸癌においても癌関連線維芽細胞の存在が予後に関わることが明らかとなっている.線維化は,浸潤癌の段階で多く認められるが,線維芽細胞が活性化される機構については不明な点が多い.【目的】大腸癌細胞のp53機能欠損が癌関連線維芽細胞に与える影響について検討を行った.【方法】大腸癌細胞株HCT116の野生型,p53欠損型,shRNAを用いたp53発現抑制細胞,ヒト線維芽細胞株WI-38を使用した.大腸癌細胞と線維芽細胞の相互的関係を明らかにするために,ヌードマウスを用いた腫瘍移植モデルを用いて検討した.In vitroでは,トランスウェル共培養を用いて,各種遺伝子発現を検討した.さらに,ヒト大腸癌の内視鏡治療切除標本を用いて,臨床病理学的特徴を検討した.【結果】p53欠損細胞と線維芽細胞を共に皮下移植すると,p53野生型細胞と線維芽細胞を共に移植した腫瘍やp53欠損細胞,p53野生型細胞をそれぞれ単独で皮下移植した腫瘍に比較して,著明に腫瘍増大を認めた.shRNAを使用した細胞株を用いても,同様の結果が得られた.このことから,p53機能欠損細胞は,線維芽細胞に影響を与え,さらに腫瘍増殖に寄与することが明らかとなった.次に,その影響の原因となる液性因子を特定し,その作用を抑えると,腫瘍増殖を抑制させることが明らかとなった.In vitroにおいて,p53機能欠損細胞と線維芽細胞をトランスウェル共培養すると,線維芽細胞が活性化され,様々な遺伝子の発現が変化した.ヒト大腸癌の内視鏡切除後標本を用いて免疫染色を行うと,p53変異と線維芽細胞の活性化に相関関係を認めた.【結論】p53機能欠損を介した液性因子により線維芽細胞を活性化し,腫瘍増悪に寄与することが明らかとなった.今後p53機能異常に伴う線維化増生は新たな治療標的となりうると考えられる.
索引用語