抄録 |
【目的】セラミドやスフィンゴシン1リン酸(S1P)をはじめとする種々のスフィンゴ脂質は,発癌や癌細胞の増殖・生存・アポトーシス等に関与することが知られている.酸性スフィンゴミエリナーゼ(ASM)はスフィンゴミエリンをセラミドに分解する酵素であり,さらにセラミドよりスフィンゴシンやS1Pが生成される.そのためASMは細胞機能において種々の役割を果たすが,転移性肝腫瘍における役割については不明な点が多い.そこで,大腸癌細胞由来転移性肝腫瘍の増殖におけるASMの役割についてマウスを用いて検討した.【方法】大腸癌由来SL4細胞をマウスに移植して作製した転移性肝腫瘍について,ASM欠損(KO)マウス,骨髄由来細胞のみASMKOとなったキメラマウス,ASM発現アデノウイルスを用いてASMの役割を検討した.【結果】転移性肝腫瘍はASMKOマウスで増悪した.ASMKOマウスの腫瘍部では,野生型と比較しマクロファージ浸潤が少なかった.野生型マウスの肝マクロファージをアレンドロネートリポソームを用いて消去したマウスでは,腫瘍はASMKOと同様に増悪したが,骨髄由来細胞のみがASMKOとなったキメラマウスでは腫瘍の増悪は認めなかった.アデノウイルスを用いて肝細胞にASMを過剰発現させたマウスでは腫瘍増殖は抑制され,腫瘍部のマクロファージ浸潤は多かった.このことから実質細胞のASMが腫瘍内マクロファージの増加を介した腫瘍増殖抑制に関与することが示唆された.マクロファージ数増加のメカニズムとしてS1Pとの関連を解析すると,ASMの過剰発現は肝臓のS1P量を増加させた.分離した腹腔マクロマージにS1Pを添加すると,細胞の遊走能が増加した.これらの結果から肝細胞のASMは,S1P産生を介して細胞障害性マクロファージを誘導することにより大腸癌由来転移性肝腫瘍の増殖を抑制する作用があり,転移性肝腫瘍の治療のターゲット分子になりうることが示唆された.【結論】肝細胞のASMは転移性肝腫瘍を抑制する. |