セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-14:

腸管腫瘍由来幹細胞に対するDNAメチル化阻害薬の効果

演者 齋藤 義正(慶應義塾大学薬学部薬物治療学)
共同演者 鈴木 秀和(慶應義塾大学医学部消化器内科), 齋藤 英胤(慶應義塾大学薬学部薬物治療学)
抄録 【目的】我々はDNAメチル化阻害薬がマイクロRNAを含む重要ながん抑制遺伝子を活性化することを報告してきた(Saito Y et al. Cancer Cell 2006).DNAメチル化阻害薬は骨髄異形成症候群の治療薬として大きな効果を上げているが,固形腫瘍に対する効果は不明である.また近年,現行の抗腫瘍薬に抵抗性を示すがん幹細胞の存在が明らかになった.本研究では,動物モデルを用いて腸管腫瘍由来の幹細胞に対するDNAメチル化阻害薬の効果を検討した.【方法】腸管腫瘍の動物モデルとしてMinマウスを用いた.6週齢よりDNAメチル化阻害薬である5-aza-2’-deoxycytidine(5-aza-dC)1μg/体重(g)を週1回皮下投与した.21週齢で解剖し,腸管の腺腫の数を比較検討した.Minマウスの腸管腫瘍より幹細胞を分離し,EGFを含むメディウム中でマトリジェルを用いた3次元培養を行った(オルガノイド培養).腸管腫瘍由来の幹細胞に5-aza-dCを添加し,細胞増殖能やマイクロRNAを含む遺伝子発現の変化を網羅的に解析した.【成績】Minマウスに対する5-aza-dC投与後の腸管腺腫の数を比較検討したところ,コントロール群が平均68.8個であったのに対し,5-aza-dC投与群では45.5個と有意な減少を認めた(p=0.001).さらにMinマウスの腸管腫瘍から幹細胞をオルガノイド培養により長期間培養することに成功した.腸管腫瘍由来の幹細胞に対し5-aza-dCを添加したところ,細胞増殖の有意な減少を認めた.マイクロRNAの発現プロファイルを解析した結果,5-aza-dC添加後にがん幹細胞において中心的な役割を果たすがん抑制マイクロRNAの発現上昇を認めた.【結論】In vivoおよびin vitroの両面からDNAメチル化阻害薬が腸管腫瘍に対し有効であることが示された.DNAメチル化阻害薬が腸管腫瘍の増殖を抑制する機序として,がん幹細胞におけるがん抑制マイクロRNAの活性化が考えられた.DNAメチル化阻害薬が通常治療に抵抗性を示す大腸がんに対する新たな治療薬として臨床応用されることが期待される.
索引用語