セッション情報 シンポジウム2

消化管癌の分子病態学に関する進歩

タイトル S2-15:

KIF20AはRNA結合蛋白質とメッセンジャーRNAの複合体を輸送することにより膵癌浸潤・転移を亢進させる

演者 谷内 恵介(高知大学薬理学)
共同演者 岩崎 信二(高知大学消化器内科学), 西原 利治(高知大学消化器内科学)
抄録 【背景】膵癌がきわめて予後不良である原因は,癌細胞の浸潤・転移能が高く,根治切除が行われたとしても術後の再発率が高いことである.したがって,そのメカニズムの解明が予後改善に重要である.【方法および結果】私達が以前報告した膵癌特異的腫瘍抗原KIF20Aは,膵癌細胞の増殖に関わるのみではなく,新たな知見として膵癌の浸潤・転移にも関与することを明らかにした.すなわち,KIF20AはRNA結合蛋白質とメッセンジャーRNA(mRNA)の複合体を含むRNA顆粒を細胞浸潤・転移に必須の部位であるLamellipodium(膜状仮足)まで輸送することにより,膵癌細胞を浸潤・転移させていた.そのRNA結合蛋白質は,膵癌臨床検体において膵癌組織の周辺部に高発現しており,in vitroおよびマウスin vivo実験において膵癌細胞を浸潤・転移させるものであった.輸送されるmRNA群の同定は,Lamellipodiumの形成を促した膵癌細胞を用いてRNA結合蛋白質特異的抗体により免疫沈降を行い,次世代シークエンサー解析により行った.KIF20Aはtubulinに沿ってRNA結合蛋白質-mRNA複合体をLamellipodiumまで輸送し,RNA結合蛋白質は輸送途上のmRNAを分解から保護する重要な機能を有していた.輸送されたmRNAは,RNA結合蛋白質を介してポリソームへ移行して局所翻訳され,細胞膜下の突起に集積した.その結果,Lamellipodiumの形成が促進され,膵癌細胞の浸潤・転移に関与する可能性が示された.【考察】KIF20AがRNA結合蛋白質-mRNA複合体の輸送を介して局所翻訳に関与することにより膵癌の浸潤・転移を亢進させるという新しい機序が明らかにされると,膵癌の浸潤・転移抑制効果を目的とした新規創薬の実現が期待できる.KIF20AによるRNA顆粒の輸送システムの阻害,Lamellipodiumにおける局所翻訳の阻害が膵癌の浸潤・転移を抑制するために有効であると考えている.膵癌細胞内でRNA顆粒を輸送するモーター蛋白質の存在は未だ知られておらず,今後の重要な研究領域である.
索引用語