セッション情報 シンポジウム4

胃癌発症とヘリコバクター感染―菌体成分の役割と慢性炎症の役割

タイトル S4-3:

H. pylori CagAの胃発癌機構における役割

演者 林 義人(大阪大学消化器内科学)
共同演者 辻井 正彦(大阪大学消化器内科学), 竹原 徹郎(大阪大学消化器内科学)
抄録 【背景】CagA陽性H. pyloriの持続感染は,胃発癌に重要な役割を果たしている.発癌の機序については,CagA,VacAなどの菌体成分による影響と,感染によって引き起こされる炎症やその他の微小環境の影響が考えられる.CagAトランスジェニックマウスでは,胃発癌することが既に報告されている.【目的】H. pyloriによって誘導される胃発癌機構におけるCagAの役割を明らかにすることを目的として検討を行った.【方法】胃粘膜上皮由来細胞株RGM-1にCagAを強制発現させて,癌抑制microRNA let-7発現への影響,及びその分子機構を検討した.また,CagA陽性H. pylori菌株とCagA欠損H. pylori菌株を,胃癌細胞株AGSに感染させて,let-7発現を解析した.さらにCagAトランスジェニックマウスを用いて,let-7発現,腸上皮化生関連分子機構を検討した.【結果】RGM-1細胞株において,CagA強制発現によりlet-7発現は有意に抑制され,その標的であるRas発現が誘導された.let-7の発現は,DNAメチル基転移酵素であるDNMT3Bとヒストンメチル基転移酵素であるEZH2によって制御されていた.脱メチル化剤を使用すると,CagAにより抑制されたlet-7発現は回復し,Ras発現が抑制された.AGS細胞株では,CagA陽性H. pylori株の感染によってlet-7の発現が抑制された.CagAトランスジェニックマウスでは,let-7の発現は減少しており,Rasの発現の亢進を認めた.また,胃粘膜組織においてKi67陽性細胞の有意な増加を認めた.腸上皮化生のマーカーであるCDX2の発現や粘液形質は認めなかったため,CagAと腸上皮化生の直接的な相関関係はないと考えられた.【結論】胃粘膜上皮細胞では,H. pylori CagAは,エピジェネティックな制御機構によってlet-7発現を抑制し,Rasの発現異常に寄与し,細胞の増殖亢進に関与していることが明らかとなった.H. pylori感染により引き起こされる胃発癌機構において,let-7が新たな診断マーカーや治療の標的となりうる可能性が考えられる.
索引用語