セッション情報 シンポジウム4

胃癌発症とヘリコバクター感染―菌体成分の役割と慢性炎症の役割

タイトル S4-4:

ピロリ菌感染時の胃発がんリスクを規定する宿主キャラクター

演者 津川 仁(慶應義塾大学医学部総合医科科学研究センター)
共同演者 鈴木 秀和(慶應義塾大学医学部内科学(消化器)), 佐谷 秀行(慶應義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御)
抄録 【目的】ピロリ菌感染は決定的な胃がんのリスクファクターであり,特に,ピロリ菌のエフェクター分子CagAはがん蛋白質として機能し,ピロリ菌感染時の胃発がんに強く関与する.しかしながら,ピロリ菌感染者のうち胃がん発症者は一部であることから,感染に伴う発がんプロセスには未知なる発がん制御システムが存在すると指摘されてきた.本研究では,CagAによるがん化促進機構を理解する目的で,宿主細胞内CagAの安定性について検討した.【方法】in vitro H. pylori感染モデルを用いて細胞内CagA安定性を評価した.autophagy発現はEGFP-LC3 vector,LysoTracker及びTeton-EGFPLC3-mCherryシステムで評価した.【結果】宿主細胞内へ打ち込まれたCagAはautophagyにより分解され,安定化されなかった.CagA分解を担うautophagyは,ピロリ菌の産生する空胞化毒素VacAが細胞内ROS蓄積を誘導することで起動した.細胞内ROS蓄積はAkt-Mdm2-p53蛋白分解系を介してautophagyを起動させた.さらに,autophagosome-lysosome融合の促進がLAMP1発現亢進を介してもたらされた.がん幹細胞マーカー分子のひとつであるCD44 variant 9は細胞内グルタチオン(GSH)を亢進させ酸化ストレス耐性を示すことで,CagA分解性autophagy起動抵抗性を示し,細胞内CagAを安定化させた.【結語】CD44v9発現は,ピロリ菌感染時の胃発がんリスクを規定する重要な宿主キャラクターとなる.本演題では,ピロリ菌感染による胃がん発症における「CD44v9発現がん幹細胞」の重要性について報告する.
索引用語