セッション情報 シンポジウム4

胃癌発症とヘリコバクター感染―菌体成分の役割と慢性炎症の役割

タイトル S4-5:

H.Pylori感染における自然免疫受容体NOD1を介した胃癌発癌機構の解析

演者 伏谷 淳(東北大学消化器病態学分野)
共同演者 浅野 直喜(東北大学消化器病態学分野), 今谷 晃(東北大学消化器病態学分野)
抄録 【背景・目的】Helicobacter pyloriH.pylori)の菌体成分であるCagAやペプチドグリカン(PGN)は炎症を惹起するとともに,種々の細胞内のシグナル経路を活性化し胃癌の発癌に関与する.胃上皮細胞質内に局在するNucleotide-binding Oligomerization Domain 1(NOD1)はH.pyloriのPGNを認識する自然免疫受容体である.本研究では,NOD1欠損(NOD1KO)マウスによるH.pylori長期感染モデルを作製しNOD1の発癌への関与を検討した.【方法・結果】1年間H.pyloriを感染させたNOD1KOマウスの胃粘膜上皮では,野生型に比べて有意に細胞および構造異型を認めた.このため,NOD1を過剰発現するマウス正常胃上皮培養細胞株GSM06(NOD1Tg)およびshRNAによるNOD1 knocked-down GSM06(NOD1KD)を樹立し,in vitroでmicroarray解析をおこなった結果,NOD1発現抑制により活性化する細胞内シグナルとしてPI3K-Akt-GSK3βシグナルを同定した.H.pylori刺激下ではNOD1Tgに比べNOD1KDでAktおよびGSK3βが強くリン酸化され,蛍光免疫組織化学ではH.pylori刺激したNOD1KDでβ-cateninの細胞質および核内移行,さらにTCF reporter assayでも,NOD1KDで3.20±0.59倍と有意にH.pylori刺激によるルシフェラーゼ活性の上昇を認めた.このため,NOD1の発現抑制はH.pylori刺激によるAktとGSK3βのリン酸化を介したβ-cateninの活性化を増強すると考えられた.また,β-cateninの標的遺伝子であるc-MycおよびcyclinD1の発現はNOD1KDにおいて,各々13.8±1.57倍,6.14±0.47倍と有意に増加し,in vivoにおいても,NOD1KOマウスではc-Mycの発現は2.75±0.07倍と有意に増加していた.【結論】H.pylori感染胃粘膜上皮細胞では,自然免疫受容体NOD1はAkt-GSK3βを介するWnt/β-catenin細胞内シグナル経路に対して抑制的に作用しているが,NOD1発現が抑制された状態では,Wnt/β-catenin細胞内シグナルが亢進するため,癌遺伝子c-MycやcyclinD1が活性化し異型上皮が誘導されることが示唆された.
索引用語