セッション情報 シンポジウム4

胃癌発症とヘリコバクター感染―菌体成分の役割と慢性炎症の役割

タイトル S4-7:

H.pylori感染胃炎からの胃癌発生―ハイリスク群とその分子機構を巡って―

演者 吉田 岳市(和歌山県立医科大学第二内科)
共同演者 加藤 順(和歌山県立医科大学第二内科), 一瀬 雅夫(和歌山県立医科大学第二内科)
抄録 【目的】胃癌,特にその主要な部分を占める分化癌はH.pylori感染による慢性炎症を基盤に,萎縮性胃炎(CAG),化生性胃炎を経て発生に至る過程がmain routeとして広く認識されている.一方,H.pylori感染胃炎からの発癌には解明されていない点も多く,特に未分化癌を含め,軽度CAGからの発癌の実態は詳細不明である.本シンポジウムでは,この点についての検討を報告する.【方法】某職域健常中年男性5206人(H.pylori除菌成功474人を含む)を対象に,萎縮性胃炎進展度,胃炎活動度を評価した上で追跡調査を行う事で胃癌発生率を検討した.さらに,胃粘膜DNAを抽出,胃癌症例での変化が報告されているpromoter領域(FLNcHAND1THBDp41ARCHRASLSLOX),繰り返し領域(Alu,Satα)を対象に,real-time methylation-specific PCR法およびbisulfite-pyrosequence法にてDNAメチル化を解析した.【結果】健常中年男性の胃癌発生率は,H.pylori感染胃炎進展とともに増加し,化生性胃炎で最高値である年率1.1%に達した.軽度CAG群では胃癌発生率は,胃炎活動度と共に増加し,高度活動性胃炎ではCAGに相当する年率0.25%程度に達した.この状況下でDNAメチル化は,各遺伝子promoter領域,反復配列共に,胃炎活動度に相関して高度の変化を示した.観察されたDNAメチル化はH.pylori除菌療法により回復し,胃癌発生も有意に抑制された.一方,CAG進展群では,活動性炎症による癌発生増強効果は認められず,DNAメチル化の変化は改善した.また,除菌療法による胃癌発生抑制効果は観察されなかった.【結論】H.pylori感染胃炎ではCAG進展に加えて,軽度CAGに合併する活動性胃炎が癌リスク上昇に関与する事が示された.後者からの発癌の背景には,各promoter領域および反復配列を含む広範な遺伝子領域を対象に,活動性炎症により惹起される可逆的なDNAメチル化異常亢進が存在する事が示された.
索引用語