セッション情報 シンポジウム4

胃癌発症とヘリコバクター感染―菌体成分の役割と慢性炎症の役割

タイトル S4-10:

Helicobacter感染による幹細胞マーカー遺伝子発現変化と腫瘍形成能の検討

演者 芝田 渉(横浜市立大学消化器内科)
共同演者 須江 聡一郎(横浜市立大学消化器内科), 前田 愼(横浜市立大学消化器内科)
抄録 【目的】ヘリコバクター感染は萎縮性胃炎や腸上皮化生を惹起し胃発癌に関与すると考えられているが,その発癌メカニズムはいまだ不明な点が多い.近年腫瘍幹細胞の概念が提唱され,その同定は新たな治療標的ともなりうることから,臨床的にもきわめて重要である.今回我々はヘリコバクター感染による上皮幹細胞マーカーの推移を検討し,胃発癌に及ぼすヘリコバクター感染の影響について検討した.【方法】ヘリコバクター感染胃の病理学的検討を行い,幹細胞候補遺伝子についてその発現パターンと局在を免疫染色で検討した.同時にヘリコバクター感染後のマウス胃から上皮細胞を単離し3次元胃上皮細胞培養いわゆるオルガノイド培養を行った.胃組織ないしは培養オルガノイドよりmRNAを抽出しRT-PCR法を用いてmRNA発現の検討も行った.さらにMNU胃化学発癌モデル由来の胃上皮細胞からオルガノイド培養を行い,免疫不全マウスに皮下注射することにより腫瘍形成能についても検討した.【結果】病理組織学的検討においてはヘリコバクター感染により強い炎症所見やリンパ濾胞の増生,萎縮性変化,および化生性変化を認めた.胃オルガノイドの数は,非感染マウスに比べて感染マウスにおいて有意に多かった.オルガノイド中のmRNA発現をマイクロアレイとqRT-PCRを用いて検討したところ,CD44やDcamkl-1など腫瘍幹細胞マーカーが有意に高発現していた.さらにvillinやISXなどの腸上皮特異的に発現する遺伝子も,感染胃由来のオルガノイドにおいて有意に高発現が認められた.MNU刺激マウス胃から同様にオルガノイド培養を行い免疫不全マウスに皮下注射したところ,約3か月後に腫瘍形成を認めたが,その他のマウス由来の胃オルガノイドからは腫瘍形成は認めなかった.【結論】ヘリコバクター感染胃上皮においては,化生性変化や腫瘍が形成される前段階から,腸上皮化生や腫瘍化に関わる遺伝子発現変化がおこり,これらの変化がその後の発癌に重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
索引用語