セッション情報 シンポジウム8

生活習慣病と消化器疾患・病態生理学の新たな展開

タイトル S8-2:

脂質代謝に関与するアポリポプロテインEの動態変化に伴う胃運動及び胃壁内神経叢への影響

演者 福原 誠一郎(慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器))
共同演者 正岡 建洋(慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器)), 鈴木 秀和(慶應義塾大学医学部内科学教室(消化器))
抄録 【目的】糖尿病性胃不全麻痺は,糖尿病の発症から10年以上経過した患者の一部で発症する.病因として,消化管平滑筋の弛緩に関与する一酸化窒素を産生するneuronal nitric oxide synthase(nNOS)の減少が示唆されている.一方,脂質異常症は糖尿病性神経障害のリスク因子として挙げられている.脂質代謝に関与するアポリポプロテインE(apoE)は,中枢神経系ではグリア細胞から産生され,神経細胞の生存や維持に関与することが知られている.近年,apoEの欠損は脂質異常症や動脈硬化を惹起する他,胃内のnNOS産生を減少させることが報告された.そこで今回,胃運動障害に対するapoEの役割を検討した.【方法】apoEノックアウトマウスと2型糖尿病のモデルであるdb/dbマウス,野生型のマウスを用いた.apoEノックアウトマウスについては12週齢と30週齢で検討した.胃排出能は,13C呼気試験で13Cの半減期(t1/2)を測定し,指標とした.胃壁内神経叢の評価として,nNOSの他に,全般的なニューロンのマーカーであるPGP9.5,グリアのマーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP),グリア由来の神経栄養因子であるglia derived neurotrophic factor(GDNF)の発現を免疫組織化学で検討した.【結果】db/dbマウスでは全体の27%で胃排出遅延を認めた.胃排出遷延を伴ったdb/dbマウス群では,胃前庭部のnNOS発現が減少した他,血清のapoE濃度が野生型に比して有意に減少した.一方,apoEノックアウトマウスの胃排出能は12週齢では,野生型と同等であったが,30週齢では有意に遅延していた.apoEノックアウトマウスの胃壁内神経叢においていずれの週齢においてもPGP9.5の発現には差がなかったがGFAP,GDNFの発現は減少していた.30週においてのみnNOS発現の低下を認めた【結論】apoEの減少は,GFAPやGDNFを減させ,胃内のnNOS減少と胃運動障害を惹起する可能性が示唆された.
索引用語