セッション情報 シンポジウム8

生活習慣病と消化器疾患・病態生理学の新たな展開

タイトル S8-12:

飽和脂肪酸による肝細胞アポトーシス~IAP蛋白が果たす役割~

演者 赤澤 祐子(長崎大学病院消化器内科)
共同演者 Gretory Gores(Mayo Clinic), 中尾 一彦(長崎大学病院消化器内科)
抄録 【目的】NASHではインスリン抵抗性の上昇に伴い,脂肪組織から過剰に放出された血清遊離脂肪酸により肝細胞アポトーシスが誘導される.我々は飽和脂肪酸がDeath Receptor 5(DR5)を介し肝細胞死を誘導することを報告した.Cellular inhibitor of apoptosis(IAP)-1,-2はDR5による細胞死を抑制することが知られている.しかしIAP蛋白が脂肪酸による肝細胞死に果たす役割は知られていない.今回我々は,脂肪酸がIAP蛋白の発現を変化させ,肝細胞アポトーシスを誘導しているとの仮説を立てた.【方法】Huh-7,HepG2,Hep3B,wild type及びDR5-knockout(KO)miceより遊離した肝細胞を飽和脂肪酸(パルミチン酸,PA 800uM)または不飽和脂肪酸(オレイン酸,OA 800uM)で刺激し,IAP蛋白発現をimmunoblottingにより検討した.また非NASH,NASH患者肝生検組織中のIAP蛋白発現を検討した.【成績】cIAP-1,cIAP-2はPA処理により急速に消失したが,細胞毒性が弱いOAによる刺激ではIAP蛋白の減少は見られなかった.cIAP-1,2のE3 ubiquitin ligase activityを司るRING domainにpoint mutationを導入したプラスミドをHuh細胞にtransfectionしたところ,PAによるcIAPの減少が阻害されたことからcIAPの減少はauto-ubiquitinationを介したものと考えた.cIAP-1のshRNAによるknockdownはPAによるアポトーシス感受性を上昇させたが,cIAP-2 shRNA cell lineではその変化は見られなかった.またWild type miceの遊離肝細胞では,cIAP inhibitor(SMAC mimetic)はPAによる肝細胞死を有意に上昇させたが,DR5-KO miceの肝細胞ではこの変化は見られなかった.よってPAによるcIAP-1減少によりDR5を介したアポトーシス経路が活性化されると考えられた.さらにNASH患者では非NASH患者と比較して肝生検組織中のcIAP-1が減少していた.【結論】cIAP-1の減少が飽和脂肪酸によるDR5を介した肝細胞死に寄与している.将来cIAP-1をターゲットとする治療がNASHに有効である可能性が考えられた.
索引用語