セッション情報 シンポジウム8

生活習慣病と消化器疾患・病態生理学の新たな展開

タイトル S8-15:

p62,Nrf2遺伝子二重欠損マウスにおける腸肝相関よりみたNASH発症機序の解明

演者 蕨 栄治(筑波大学医学医療系医療科学)
共同演者 秋山 健太郎(筑波大学医学医療系医療科学), 正田 純一(筑波大学医学医療系医療科学)
抄録 【目的】我々の作製したp62遺伝子ならびにNrf2遺伝子の二重欠損(double knockout;DKO)マウスは,通常食餌による飼育下で約10週齢以降に過食による肥満と単純性脂肪肝を呈し,約25週齢以降にNASHを発症,50週齢以降の約10%の個体に腫瘍が出現する.本マウスについて,クッパー細胞の貪食能,糞便中LPS,腸管透過性の解析を行い,肝,腸管,内臓脂肪の病理形態と比較することより,NASHの発症機序を探索した.また,制限給餌の影響を検討した.【方法】クッパー細胞に取り込まれることが知られている造影剤SPIO(超磁性酸化鉄)を尾静脈より投与し,動物用小型MRIにより撮像し,得られるT2値の変化量から,野生型,p62-null,Nrf2-null,DKOマウスにおけるクッパー細胞の貪食能を評価した.各系統マウスの糞便に含まれるLPSの含量を測定した.糖混合液投与により腸管透過性を評価した.【結果】自由摂餌下のDKOマウスでは,クッパー細胞におけるSPIOの取り込み能は,野生型と比べ減弱していた.また,糞便中LPS含量の増加と腸上皮の透過性亢進が観察された.約20週間の制限給餌により,DKOマウスの肥満は抑制され,腸上皮の低層化,内臓脂肪における炎症性細胞浸潤,NASH肝病変は劇的に軽減した.制限給餌によるクッパー細胞の貪食機能の変化は認められなかった.【結論】DKOマウスにおけるNASH発症には,過食とそれに伴う腸内細菌叢の変化,それに関連するLPSの増加と腸上皮の透過性亢進,さらに,クッパー細胞機能低下によるLPS処理の低下が重要な役割を演じていることが示唆された.今後,NASH発症機序のさらなる理解のために,肝細胞,腸上皮,脂肪細胞,クッパー細胞等において組織・細胞特異的に各遺伝子をレスキューしたマウスを作製すること,各遺伝子レスキューマウスにおける形質変化とNASH発症との関係を明らかにすることが重要である.
索引用語