セッション情報 パネルディスカッション3

抗血栓薬服用時の消化管傷害・出血の実態とその対策

タイトル PD3-1:

低用量腸溶剤アスピリン(LDA)による消化性潰瘍出血の実態とその対策

演者 塩谷 昭子(川崎医科大学消化管内科)
共同演者 木村 智成(心臓病センター榊原病院消化器科), 春間 賢(川崎医科大学消化管内科)
抄録 【目的】低用量腸溶剤アスピリン(LDA)による上部消化管出血の病態とその関連因子を同定する目的で,LDA内服患者を対象に症例対象研究を行った.プロトンポンプ阻害薬(PPI)併用者における上部消化管出血例についても検討した.【対象および方法】対象は,上部内視鏡検査を受けたLDA内服患者580例(男性382例,女性198例,年齢42~91歳,平均年齢71歳:出血例50例を含む消化性潰瘍100例および対照者).腫瘍例は除外した.内視鏡検査時,内服薬を中心に詳細な問診調査を行い,遺伝子多型はスタチンやアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の取り込みトランポーター遺伝子SLCO1B1に加え,Affymetrix DMETTM Plus Premier Pack.を用いた網羅的遺伝子解析を追加した.【成績】80歳以上の高齢,潰瘍既往歴,慢性腎不全,NSAIDs併用,SLCO1B1 *1b(388Gと521T)ハプロタイプが潰瘍の危険因子であり,PPI,ARB orアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,スタチン併用は潰瘍の抑制因子であった.多変量解析の結果,潰瘍出血は,80歳以上(adjusted OR 3.45;95%C.I. 1.37-8.9)潰瘍既往歴(5.45;2.-14.1)チエノピリジン誘導体(3.35;1.25-9.00)およびPPI orヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA,0.14;0.06-0.35)併用,SLCO1B1*1bハプロタイプ(6.48;1.81-23.2)が有意に関連した.PPI併用内服中に潰瘍出血を来した症例は1例のみでNSAIDsおよび他の抗血栓薬を併用していた.【結論】LDAによる潰瘍予防には,PPIが有効であり,SLCO1B1遺伝子多型を介したスタチン,ARB併用による潰瘍抑制効果が示唆された.一方,抗血栓薬の併用は潰瘍出血を助長し,特に高齢者に対するLDAとNSAIDsの併用には注意が必要である.
索引用語