セッション情報 パネルディスカッション3

抗血栓薬服用時の消化管傷害・出血の実態とその対策

タイトル PD3-5:

抗血小板療法(APT)継続中に発症した消化性潰瘍(GDU)出血の実際

演者 笹井 貴子(獨協医科大学消化器内科)
共同演者 平石 秀幸(獨協医科大学消化器内科)
抄録 【背景・目的】高齢化人口の急激な増加に伴い低用量アスピリン(LDA)を中心としたAPT継続例が増加し,その重篤な副作用である消化管出血の増加・重症化が危惧されている.2009年GDU診療ガイドライン公示,2010年LDA潰瘍二次予防に対するPPI効能追加承認を受け,APT継続例におけるGDU出血に変化が生じたかどうか現状把握と臨床的背景の検討を行った.【方法・対象】2000年1月~2013年7月のGDU出血入院症例のうちAPT継続中に発症した252例(胃潰瘍190例,十二指腸潰瘍62例)に対し,1)基礎疾患,高リスク薬剤(抗血小板薬・抗凝固薬,NSAIDs)・抗潰瘍薬投与の有無,2)出血に対する初期治療,合併症,3)抗血小板薬休薬後のイベント発症の有無につき検討した.【結果】1)GDU出血は2008年,APT継続例の消化管出血は2009年をピークに減少傾向にあった.2)APT継続例の全例に基礎疾患を認め,心血管疾患,脳血管障害,糖尿病の順に高頻度であり,31%にGDU治療歴があった.3)APTの74%はLDA投与例であり,48%はLDA以外の抗血小板薬投与例であった.LDA投与例の約半数,LDA以外の抗血小板薬投与例では70%が高リスク薬剤を多剤併用されていた.4)APT継続例の45%に抗潰瘍薬が併用されていなかった.ガイドライン公示後もその割合は減少していない.5)APT継続例では再出血の頻度が高かった.LDAは多剤併用例において再出血率を増加させた.LDA以外の抗血小板薬では単独・多剤併用例いずれも再出血率が増加した.6)APT中止による心血管系・脳血管イベント発症率は5.6%,このうち80%がLDA中止例で発症までの平均日数は7.6日であった.【結論】GDU出血症例数は減少傾向にあるが,抗血小板薬の多剤併用例・高リスク薬剤併用例では出血重症化の危険がある.ガイドラインに従ったPPIの適切な併用によってAPT継続例でのGDU出血発症を抑制しうる可能性がある.消化管出血併発によるAPT,特にLDAの中断は心血管系・脳血管イベント発症のリスクを念頭に置き判断する必要があるが,中断例では止血後可及的速やかな再開が望ましいと考えられる.
索引用語