抄録 |
【目的】プライマリ・ケア医(PC)と消化器専門医(GP)のそれぞれの立場から見た,機能性胃腸症(FD)診療の差異と,Rome III基準の捉え方の違いについて検討する.【方法】PC190人(男性172人,平均年齢50.7才)とGP217人(男性188人,平均年齢41.0才)を対象に,FD患者の特徴,治療法とその奏功率,Rome III基準の妥当性と問題点に関して自己記入式のアンケート調査を行った.【結果】FD診断時にHelicobacter pylori(HP)感染を考慮すると回答した割合は,3割程度と両群で差を認めなかったが,内視鏡的胃炎を考慮する割合は,GPが有意に高かった(PC:46.2% vs. GP:59.2%,p<0.01).また,治療抵抗例(4週間治療後も症状が持続)の割合が50%以上と回答した割合は,GPで有意に多かったが(PC:14.8% vs. GP:28.0%,p<0.01),その原因を心因性とする割合は30%程度で2群間に差はなかった.食後愁訴症候群(PDS)の第一選択薬はPC,GPともに消化管運動機能改善薬であり,ついでプロトンポンプ阻害薬(PPI)であったが,GPでPPIをより多く処方していた.しかしながら,その奏功率は,2群間に差を認めず50%程度であった.他方,心窩部痛症候群に対する第一選択薬は2群ともPPIであり,その奏功率は60%程度と差がなかった.本邦のFD診療にRome III基準が適していると回答した割合は,PCで14.3%,GPで20.6%と低かった.最大の理由に病悩期間の長さが挙げられた,PCでより重要視しており(PC:91.9% vs. GP:81.3%,p=0.03),妥当な期間は6.4±0.4週であった.更に,定義に書かれているFDの症状が,本邦と異なるとする意見も20%に認めた(食欲不振,上腹部不快感,上腹部膨満感).【結論】GPは治療抵抗例が多い印象を持っており,診断時に内視鏡的胃炎を考慮し,PPIを第一選択薬としてより多く処方していた.Rome III基準の捉え方は両群に差はなく,妥当性は20%程度と低値であった.両群とも罹病期間とFDの亜分類を問題点としていたが,PCでより罹病期間を問題点としていた. |