抄録 |
【目的】非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)・抗血小板薬は小腸に粘膜障害を引き起こすが,その発症部位や機序は未だ明らかでない.我々はダブルバルーン内視鏡(DBE)にて全小腸を対象にマッピング生検を施行して病理学的に検討し,NSAIDs・抗血小板薬の小腸全部位に対する影響を検討した.【方法】対象はDBEにて全小腸を観察した19症例.対象を1群NSAIDs・抗血小板薬を服用しDBEで小腸にびらん・潰瘍を認めた患者(4例),2群NSAIDs・抗血小板薬を服用しているが,びらん・潰瘍を認めない患者(8例),3群NSAIDs・抗血小板薬服用なく,びらん・潰瘍も認めない患者(7例)の3群にわけた.インフォームドコンセントにより空腸から2カ所,回腸から3カ所を等間隔に生検することを全小腸マッピング生検とし,合計95個の病理学的検討を行った.【成績】1,2,3群でそれぞれ中等度炎症細胞浸潤は32%,0%,0%,好酸球浸潤は26%,5%,0%,好中球浸潤は16%,0%,0%,また慢性炎症を示唆する陰窩のねじれは21%,0%,0%,繊維化は26%,5%,0%であった.これらは1群と2群でそれぞれ有意差を認めた.またアポトーシスは53%,48%,17%であり1群と2群に有意差は認めず2群3群間で有意差を認めた.絨毛萎縮は68%,43%,26%であり1群2群間では有意差は認めず,1群3群間で有意差を認めた.小腸部位別の差は認めなかった.【結論】NSAIDs・抗血小板薬服用中でも粘膜障害を来さない患者の小腸粘膜では病理学的に炎症は軽微である一方,上皮細胞のアポトーシス,絨毛萎縮はびらん・潰瘍を伴う症例と同等に有意差をもって全小腸にわたり認められた.つまり粘膜にびらん・潰瘍が出現する際には,潜在的な上皮細胞への影響だけでなく,間質への炎症細胞浸潤が加わることにより発症する可能性が示唆された.これは内視鏡的に小腸粘膜障害のないNSAIDs・抗血小板薬服用患者においても炎症による潰瘍発症を予防することが必要であることが示唆される. |