セッション情報 パネルディスカッション6

IBS病態研究の進歩と本邦における臨床実態―ベンチからベッドサイドまで

タイトル PD6-1:

過敏性腸症候群病態研究の進歩と臨床実態

演者 福土 審(東北大学行動医学)
共同演者 遠藤 由香(東北大学心療内科), 金澤 素(東北大学行動医学)
抄録  過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)の発生機序は未だ完全には解明されていない.しかし,消化管生理学,脳画像,免疫学,細菌学,遺伝学,臨床疫学,心身医学の集学的動員により,IBSの脳腸相関の病態追求が進み,治療法も進歩し続けていることも事実である.IBSの病態生理として,中枢機能と消化管機能の関連(脳腸相関)が重視されている.脳腸相関の病態の詳細は,主に消化管運動の異常,消化管知覚過敏,心理的異常の3つである.消化管運動の異常は,大腸の分節運動の亢進,小腸の異常運動であり,ストレス,食物,消化管運動賦活薬などの刺激により誘発され,睡眠下などの弛緩時に生じにくい.消化管知覚過敏は,大腸にバルーンを挿入し,伸展刺激を加えると,健常者より弱い刺激で知覚が生じ,また,痛覚の程度が健常者よりも強い.心理的異常とは,抑うつ,不安,身体化が代表的な機制である.これらの病態には更に消化管微小炎症,炎症あるいはストレスによる神経の感作,消化管粘膜透過性亢進,腸内細菌ならびにゲノムが影響する.治療に際しては,医師が患者の苦痛を傾聴し,受容することが重要である.その上で,日常生活中のIBSの増悪因子があれば除去し,消化管に主に作用する薬物療法をまず行う.IBSの治療薬として,米国では非吸収性抗生物質の臨床試験が成功したが,承認されておらず,寧ろプロバイオティクスの有用性が高い.また,便秘型にClC-2賦活薬,guanylate cyclase賦活薬が使用され,わが国では,慢性胃炎が合併していれば5-HT4刺激薬を使用することも可能である.一方,わが国では,下痢型男性に対して5-HT3受容体拮抗薬が適用でき,その根拠水準も上昇してきている.また,漢方薬の桂枝加芍薬湯,大建中湯が奏効する症例がある.それらで不十分であれば,抗うつ薬あるいは常用量依存などに十分に注意しながら抗不安薬を用いる.薬物療法が無効な時には認知行動療法などの心身医学的治療を考える.IBSの病態研究の進歩に基づく新規治療法の更なる開発が期待される.
索引用語