抄録 |
過敏性腸症候群(IBS)は,有病率15%にも及ぶcommon diseaseであるものの,治療満足度は低く,身体面・精神面・社会面での著しいQOL低下から社会生産性の大きな損失と医療経済面への多大な負担を招いている.その病態生理は依然として混沌としているが,脳科学,消化管生理学,細菌学,心身医学など様々な分野からのアプローチが進んでいる.特に近年,様々なモダリティの発展により,「消化管運動」という側面からの病態解明においては無限の可能性を秘めているといえる.IBSは器質的疾患が無いことが大前提であるため,画像診断学的なアプローチはこれまであまり盛んではなく,消化管運動評価にはマノメトリーによる腸管内圧測定などが多かった.Small PKらはIBS-C患者の小腸蠕動評価を行っているが,マノメトリーは患者侵襲が大きく,また再現性が低い点が臨床上大きな欠点である.またMarciani Lらはsingle-shot MRIを用いてIBS-D患者の食後小腸運動を調べているが,これはいわゆる「静止画」による評価であり,実際の蠕動を直接的に評価したものではない.小腸通過時間評価の観点からはカプセル内視鏡も有用な手段である可能性もあるが,保険適応の問題や,再現性の低さといった懸念もある.近年シネMRIが開発され,1秒未満の細かい時間的分解能で数十秒間撮影して得られた画像を専用ソフトで連続再生することで,Cinemaのように動画として臓器運動を評価することが可能となった.主に心血管分野での臨床応用が盛んであるが,最近では消化管運動評価にも用いられ,昨年我々は慢性偽性腸閉塞症の小腸蠕動評価に対する有用性を証明した.またIBS患者においても,(今後大規模な症例の集積が必要であるが)自験例ではシネMRIでIBS-CとIBS-Dの運動所見に差を認めている.シネMRIは全小腸の連続的な評価が可能であり,運動の様子を動画として直接的に把握できる有用なモダリティと言える.これまで「目に見えなかった」IBSの病態を「肉眼として捉えられるもの」とすることで,その病態解明に大いに貢献する可能性を秘めている. |