セッション情報 パネルディスカッション6

IBS病態研究の進歩と本邦における臨床実態―ベンチからベッドサイドまで

タイトル PD6-4:

下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)に対するラモセトロン有効性に関するS100タンパクおよびTryptophan hydroxylase(TpH)-1の検討

演者 塩谷 昭子(川崎医科大学消化管内科学)
共同演者 眞部 紀明(川崎医科大学検査診断学), 春間 賢(川崎医科大学消化管内科学)
抄録 【背景】S100A10(p11)が下痢型IBS(IBS-D)の病態に関与し,5-HTTLPR del(s)ホモ保有者は,5HT3拮抗薬(ラモセトロン)の奏効率が高いことを以前に報告した.【目的】S100A10の発現およびTryptophan hydroxylase(TpH)-1遺伝子多型とラモセトロン有効性について検討した.【方法】IBS-Dを対象に,ラモセトロン2.5μg錠 2錠/日)を1か月間投与し,内服量は,便の回数あるいは症状に合わせ1錠に減量可能とし,患者日誌に基づき有効性を評価した.治療開始前に下部内視鏡検査を施行し,直腸およびS状結腸より生検を行い,組織よりRNAを抽出した.RT-PCRによりS100A,TpH1のmRNAの発現を定量化し検討した.血液よりDNAを抽出し,TpH-1遺伝子多型(rs7130929,rs4537731,rs211105,rs684302,rs1800532)についてPCR-RFLP法あるいはダイレクトシークエンス法により検討した.ラモセトロン投与前後に,GSRS,SF-36の問診調査を行った.【成績】対象はIBS-D39例(男性27例,女性12例,平均年齢43.8歳).ラモセトロン内服により,有効群(n=27)と無効群(n=12)の比較では,性別・年齢に差を認めなかった.有効群は無効群と比較して,有意に下痢のスコアが高く,直腸粘膜S100A10(p=0.01)およびS状結腸粘膜TpH1mRNA(p=0.03)発現量は有意に高かった(p=0.01).遺伝子多型の検討では,有効群で5-HTTLPR del(s)ホモ保有者が高率(77.8% vs 33.3%,p=0.01)で,TpH-1 high producer SNPs rs4537731 TT(88.9% vs 50%,p=0.002)rs211105 TT(96.3% vs 50%,p=0.002)が有意に高率であった.TpH-1 high producer SNPsを有する群ではS状結腸粘膜のTpH1発現量が有意に高値であった.【結論】S100タンパクの遺伝子発現は,5HT3拮抗薬の有効性と関連した.5-HTTおよびTpH-1遺伝子多型によりシナプス間隙セロトニン量が増加し下痢を来しやすい症例で,ラモセトロンが有効である可能性が示唆された.
索引用語