セッション情報 パネルディスカッション6

IBS病態研究の進歩と本邦における臨床実態―ベンチからベッドサイドまで

タイトル PD6-9:

大腸画像検査を活用した機能性腸障害の診断と治療―病態説明と治療選択ツールとして―

演者 水上 健(国立病院機構久里浜医療センター内科)
共同演者 鈴木 秀和(慶應義塾大学消化器内科), 金井 隆典(慶應義塾大学消化器内科)
抄録 過敏性腸症候群(IBS)の診断過程では約30%の患者が大腸鏡を経験する(JROAD-III 2010).従来の大腸画像検査の対象は腫瘍や炎症であり,苦労して検査を受けてもほとんどが「異常なし」となる.排便障害で著しく生活を制限されている患者にとって症状を説明できない検査結果は受け入れにくく,当院IBS・便秘外来患者の主たる受診動機は「検査で異常を指摘してもらうこと」である.これまで我々はIBS患者の大腸鏡は盲腸到達時間が健常者の倍以上に延長し,前医の検査で高度の苦痛を高頻度に経験していたなど排便障害と大腸鏡挿入困難に関連があることを報告した.また排便障害患者の腸管で特に困難部位となるS状結腸や下行結腸の形態異常はCTコロノグラフィー(CTC)で明瞭に描出され,緩下剤と適切なエクササイズで症状は改善可能であること,「検査自体の心理的負荷」により惹起される無麻酔大腸鏡での腸管運動異常は検査中の緊張とリラックスで速やかに出現・消失し,バイオフィードバックに活用できることを報告した.2012年4月より13年9月まで当院を受診した機能性便秘(FC)を含む機能性腸障害230名を対象に全例で前医の検査について聴取,無麻酔大腸鏡とCTCを同日に施行して腸管運動異常と腸管形態について検討した.前医の無麻酔大腸鏡ではIBS-DとFCの全例,その他の7割,麻酔下でもIBS-C,Mの半数以上が高度の疼痛を経験していた.腸管運動異常はIBS-D(34%)とFC(20%)でIBS-C(7%),M(7%)に比し有意に高頻度であり,特にIBS-Dの腸管運動異常症例はバイオフィードバックにより12例中11例がラモセトロンやタンドスピロンの内服のみで日常生活可能となった.形態異常部位の前後2倍以上の腸管径変化はIBS-D(74%),-M(71%)でIBS-C(30%),FC(13%)に比し有意に高頻度に見出され,通過障害と下痢のメカニズムを示す可能性が考えられた.機能性腸障害で施行される大腸画像検査の苦痛軽減対策,有効活用法を病態説明・治療選択の面から提示する.
索引用語