セッション情報 ワークショップ17(消化器病学会・肝臓学会合同)

遺伝性肝胆膵疾患の病態と治療

タイトル 肝W17-1:

リジン尿性蛋白不耐症における一酸化窒素の門脈循環動態に及ぼす役割

演者 渡辺 久剛(山形大・消化器内科)
共同演者 武田 忠(公立置賜総合病院・内科), 河田 純男(兵庫県立西宮病院)
抄録 【目的】リジン尿性蛋白不耐症(LPI)は、二塩基アミノ酸(L-リジン、L-アルギニン、L-オルニチン)の腸管における吸収障害と腎臓における排泄亢進により血中二塩基アミノ酸の欠乏を来す常染色体劣性遺伝の疾患であり、SLC7A7変異が原因とされている。一方、一酸化窒素(NO)の役割は動物モデルなどで検討されているが、生理的状態におけるNOの門脈循環動態に及ぼす役割は不明な点が多い。LPI患者では、NOの唯一の生体内基質であるL-アルギニンの低下があり、血中NO低下状態にあると推測されることから、その門脈循環動態に及ぼす役割を解析した。【方法】LPIの診断が確定している7名と健常人8名を対象とした。血中NOの測定は間接的定量法により行った。門脈循環動態の解析はドップラーエコーにて測定した門脈径と門脈血流速度をもとに、門脈血流量を算出し検討した。さらにL-アルギニンやNOドナーである硝酸イソソルビドの投与を行い、投与前後の血中NOおよびエコーによる門脈循環動態を比較検討した。なお本研究は本学の倫理委員会で承認のもと、文書にて同意を得て行った。【結果】LPI患者では、全例で血漿アルギニン濃度が低値であり(38.4±8.8 nmol/ml)、血中NOは健常人と比べ有意に低下していた(67±9 vs. 118±12 μmol/L)。エコーでは慢性肝疾患を示唆する所見は見られなかった。門脈血流量と門脈径は健常人と比べ有意に低下しており(411±173 vs. 846±218 ml/min;6±1 vs. 9±1 mm)。L-アルギニンあるいは硝酸イソソルビド投与後、LPI患者の血中NOは100±8 μmol/Lに有意に増加した。また門脈血流量は904±275 ml/minに、門脈径も8±1 mmに増加した。【結論】血中アルギニンが欠乏しているLPI患者において、NO産生低下が原因と思われる門脈循環障害の存在が明らかとなった。血中NOを増加させることによりこれら門脈循環障害の改善を認めたことより、原因不明の門脈圧亢進症の中に、NO産生障害やNO低反応性が関与する病態の存在が示唆された。
索引用語 NO, 門脈循環障害