セッション情報 ワークショップ2

FGIDの病態生理学と脳腸相関研究の進歩

タイトル W2-5:

松果体ホルモン,メラトニンのストレス応答への関与と臨床応用の可能性

演者 加藤 公敏(日大板橋病院臨床研究推進センター)
共同演者 石井 敬基(日本大学医学研究企画推進室), 村井 一郎(日本大学医学研究企画推進室)
抄録 胃酸分泌や消化管運動など様々な消化管の機能が,内分泌機能だけでなく概日リズムによっても制御されていることが明らかにされつつある.松果体ホルモンのメラトニンは,生体の明-暗周期による概日リズムの調節に関与し,抗酸化作用をはじめ様々な作用があり,脳腸相関における重要なメディエーターとして,ストレスを介した消化管病変への病態生理学的役割が示されている.我々は,ラットにおける23℃の水浸拘束ストレス(4時間)により惹起される胃粘膜病変の概日的な変動におけるメラトニンと松果体の役割について検討した.昼間ならびに夜間のストレス負荷により,胃粘膜の出血性びらんの発生を認めたが,夜間のストレス負荷群の方が,昼間のストレス負荷群より胃粘膜病変は有意に抑制された.夜間の血漿メラトニン濃度は,ストレス負荷前の対照ラットでは,昼間の場合よりも有意に高く,胃粘膜病変抑制との関連が示唆された.さらに,脳の松果体を切除したラット(PINX群)とsham手術を行ったラット(対照群)についても,夜間に水浸拘束ストレスを与えた.PINX群では,夜間ストレス負荷後,対照群に比較し有意な胃粘膜病変の増悪を認めたが,この病変の増加はメラトニン100ngの大槽内前投与により有意に抑制された.したがって,ストレスに応答して松果体より分泌されるメラトニンは,胃粘膜に防御的に作用していることが示唆され,ストレス惹起胃粘膜病変の形成に概日リズムとメラトニンが重要な影響を及ぼすことが考えられる.臨床的には,ストレスに関係したIBSや機能性消化管障害に対するメラトニンの有効性についての検討がなされており,IBS患者における内因性メラトニン濃度の障害や,メラトニン投与による腹痛や排便異常などの改善に対する有意な効果が報告されている.メラトニンの抗酸化,抗ストレス,抗不安作用,消化管運動調節作用などによる機能性消化管障害の新たな治療への可能性が期待される.
索引用語