セッション情報 ワークショップ2

FGIDの病態生理学と脳腸相関研究の進歩

タイトル W2-7:

H. pylori感染を有する機能性ディスペプシア患者における菌体由来因子と症状の関連性の検討

演者 松崎 潤太郎(慶應義塾大学病院予防医療センター)
共同演者 鈴木 秀和(慶應義塾大学医学部内科学(消化器)), 金井 隆典(慶應義塾大学医学部内科学(消化器))
抄録 【目的】H. pylori感染を有する機能性ディスペプシアは,約10人に1人の割合でH. pylori除菌治療により改善することが知られている(Aliment Pharmacol Ther 36:3, 2012).このことはH. pyloriの一部にディスペプシアを誘導する因子を持つ菌株が存在する可能性を示唆している.Luiらは機能性ディスペプシア患者ではメトロニダゾール耐性菌の感染率が高いという報告をしている(J Clin Microbiol 41:5011, 2003).そこで我々は,メトロニダゾール耐性を誘導する菌体由来因子が,ディスペプシア症状をも誘導する可能性があると考え,臨床分離されたメトロニダゾール耐性菌と,その菌株の宿主のディスペプシア症状の関連性について検討した.
【方法】H. pylori 2次除菌不成功患者のディスペプシア症状を調査した.またこの患者らの胃からH. pyloriを分離培養し,メトロニダゾールのMIC値を測定した.加えて代表的なメトロニダゾール耐性獲得機序であるRdxA変異の有無を検討した.さらにメトロニダゾールは酸化ストレスを介してH. pyloriを攻撃することが知られているため,酸化ストレス抵抗性に寄与する菌体因子である好中球活性化蛋白質(NapA)の発現量も定量した.
【成績】36例のメトロニダゾール耐性菌保菌者が参加した.うち8例はRome III基準による機能性ディスペプシアの診断を満たした.36例のうち11例のメトロニダゾール耐性はRdxAのフレームシフト変異に由来しており,この変異様式とディスペプシア症状の間には関連性がなかった.一方,RdxA変異のない25例に着目すると,NapAのmRNA量とメトロニダゾールMIC値に有意な相関がみられた.さらにディスペプシアを有さない患者に比べて食後愁訴症状を有する患者では有意にNapAのmRNA量が多かった.
【結論】NapAを高発現しているH. pyloriは,メトロニダゾール耐性を獲得するのみならず,宿主に食後愁訴症状を誘導することが示唆された.
索引用語