セッション情報 ワークショップ9

NAFLD/NASHにおける新知見と治療法の進歩

タイトル W9-11:

NASH/NAFLDモデルマウスの発癌過程におけるDNA酸化損傷とエピゲノム変異の誘導

演者 西田 直生志(近畿大学医学部消化器内科)
共同演者 工藤 正俊(近畿大学医学部消化器内科)
抄録 【目的】本研究では,NASH/NAFLDモデルマウスを用いて,発癌過程での肝組織における酸化損傷を解析し,さらにDNA酸化損傷がエピゲノム変異を誘導しうるかを検討した.【方法】(1)FLSマウスを用い,肝組織および発生した肝癌組織の酸化ストレスによる損傷を,8-OHdG,HNE,チオレドキシン(Trx)染色で評価した.(2)HepG2及び胎児由来肝細胞(Hc細胞)をH2O2処理し,処理前後の癌抑制遺伝子(TSG)プロモーター領域でのヒストン修飾変化を,活性型ヒストン修飾マーカーであるtrimethyl-H3K4(3MeK4H3)及びacethylated-H4K16(AcK16H4)抗体,抑制型ヒストン修飾マーカーのtrimethyl-H3K27(MeK27H3)抗体,及び8-OHdG抗体を用いて免疫沈降(ChIP)し,30種のTSGプロモーターの沈降量を定量的PCR(qPCR)にて評価した.【成績】(1)FLSマウス肝では,生後2ヶ月目より脂肪化の出現とともに8-OHdG陽性細胞が出現し,4ヶ月目よりHNE,Trx陽性細胞が出現した.その後,脂肪化の進展に伴い,8-OHdG,HNE,Trxの染色強度が増加し,癌が発生する12週以降で最大となった.(2)H2O2処理前後の,各抗体を用いたChIP後でのTSGプロモーター沈降量の増加率(fold change)の中央値は,AcK16H4では0.70,3MeK4H3で0.80,3MeK27H3で1.60,8-OHdGでは1.45であった.すなわちH2O2処理後,TSGでの8-OHdG量は増加するとともに,抑制型ヒストン修飾が増加し,活性型ヒストン修飾は減少した.さらに,H2O2で処理前後の,8-OHdG抗体によるChIP後での沈降量のfold changeは,3MeK4H3抗体でのChIPによるfold changeと負に相関し(r=-0.5273,p=0.0039),一方,8-OHdGと抑制型ヒストン修飾3MeK27H3のfold changeは正の相関を示した(r=0.7605,p<0.0001).【結論】FLSマウスでは,肝脂肪化に伴って,酸化ストレスによる組織損傷が増加する.またDNA酸化により8-OHdGが生じた場合,そのDNA領域のヒストン修飾は促進型から抑制型に変化した.肝脂肪化はDNA酸化損傷を介して,エピゲノム変異を誘発させる可能性が考えられる.
索引用語