セッション情報 口演

GERD3,その他

タイトル O-074:

難治性GERDの病態解明を目指して:ブタ下部食道括約筋と食道体部平滑筋に認めるトリプシン反応性の差異とその生理的意義

演者 伊原 栄吉(九州大学病態制御内科学)
共同演者 田中 義将(九州大学病態制御内科学), 白 暁鵬(九州大学病態制御内科学), 牟田 和正(九州大学病態制御内科学), 秋穂 裕唯(九州大学病態制御内科学), 中村 和彦(九州大学病態制御内科学), 高柳 涼一(九州大学病態制御内科学)
抄録 【背景】胃食道逆流症(GERD)は,胃酸に由来する酸逆流のみならず十二指腸液の非酸逆流もその原因となる.すなわち,PPI治療に抵抗する難治性GERDの病態の1つとして十二指腸液の非酸逆流関連する病態がある.最近,GERD粘膜障害の機序の1つに十二指腸液に含まれるトリプシンの受容体であるPAR-2の関与が示唆されたが,トリプシンが食道運動に及ぼす影響については不明であった.【目的】本研究では,トリプシンが食道運動に及ぼす影響とその機序を解明し,トリプシンが引き起こす食道運動の生理的意義及びGERDの病態との関連性を考察する.【結果】ブタLES輪走筋において,トリプシン(100 nM-300 nM)は収縮反応を引き起こした.1 μMより高い濃度では,収縮反応に引き続き持続する弛緩反応を認めた.最大の収縮反応は1 μMで認めたが,興味深いことに10 μMでは収縮反応は強く抑制され,持続する弛緩反応がメインとなった.一方,食道体部輪走筋において,トリプシン(100 nM-1μM)は収縮反応のみを引き起こし,3 μM以上で2相性反応を認めた.しかし,この2相性反応は,LES輪走筋のそれとは異なり,10 μMにおいても収縮反応が主で,わずかな弛緩反応を認めるのみであった.なお,トリプシンによる収縮反応にはRho kinaseが関与し,弛緩反応にはNOは関与せず,K+チャネルが関与した.【考察】LESと食道体部平滑筋に認めるトリプシン反応性の差異の生理的意義として,軽度の十二指腸液の逆流(低濃度トリプシン)では,LESと食道体部輪走筋は同時に収縮をすることでさらなる逆流を防止し,重度の十二指腸液の逆流(高濃度トリプシン)では,LESは持続的に弛緩し,食道体部輪走筋は強く収縮することで,食道クリアランス機能に関与することが推測された.PAR-2の発現が亢進するGERDでは,低濃度のトリプシンでもLESの持続的な弛緩が誘発され,難治性GERDの病態に関与する可能性がある.
索引用語