セッション情報 ワークショップ17(消化器病学会・肝臓学会合同)

遺伝性肝胆膵疾患の病態と治療

タイトル 肝W17-5:

成人発症II型シトルリン血症 -治療の変遷-

演者 小暮 高之(東北大病院・消化器内科)
共同演者 近藤 泰輝(東北大病院・消化器内科), 下瀬川 徹(東北大病院・消化器内科)
抄録 成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)は尿素サイクルの一つアルギノコハク酸合成酵素(ASS)の肝における発現低下により高シトルリン、高アンモニア血症を呈し、精神神経症状を来す疾患である。1999年、本疾患はcitrinの欠損に起因する常染色体劣性遺伝性疾患と判明した。治療法は確立に至らず、高アンモニア血症の対処療法の他、近年は、肝移植、病態を考慮した食事療法やピルビン酸ナトリウム投与などが行われる。CTLN2の治療の変遷につき、最近 20年の当科自験例 3例をもとに報告する。
【症例1】41才男性。頭痛、めまいで発症後に意識障害を来し、高アンモニア血症を認めた。アミノ酸分析でシトルリン高値、肝組織のASS活性低下を認め、CTLN2と診断した。血漿交換、分岐鎖アミノ酸製剤投与を行い意識障害の改善を試みるも難渋し、死亡した。
【症例2】31才男性。祖父母がいとこ婚。意識障害で発症し、アンモニア高値を認めた。アミノ酸分析でシトルリン高値あり、citrin遺伝子にcompound heterozygoteの異常([I] 851del4/[V] IVS13+1G>A)を認め、CTLN2と診断した。糖質制限食、アルギニン等の投与を行うも、脳浮腫を来し、生体肝移植を施行した。
【症例3】69才男性。両親がいとこ婚。夜間の異常行動で発症し、血中アンモニア高値を認めた。アミノ酸分析でシトルリン高値を認め、citrinにhomozygoteの異常([XVI] G531D)を認めた。高齢にて肝移植は断念。ピルビン酸ナトリウム投与にて意識障害・異常行動は改善した。【考察】当初、肝性脳症の通常の対処療法として行われた低蛋白・高糖質による栄養や脳浮腫に対するグリセオール投与が高アンモニア血症を増悪させた可能性があったが、CTLN2の原因発見を契機に病態が徐々に明らかになり、ピルビン酸ナトリウム投与など肝細胞内の代謝異常に即した治療が試みられ効果をあげている。本邦における肝移植の普及後、肝特異的にASSが低下する本疾患の根治治療としての肝移植の施行例が増加しているが、ドナー不足の問題や高齢患者など、肝移植以外の治療法の確立が望まれる。
索引用語 成人発症II型シトルリン血症, シトリン欠損症