抄録 |
【目的】糖尿病コントロール不良は循環器疾患の大きなリスクであるが,消化器疾患,特に消化器癌との関連は諸外国では膵臓癌,肝臓癌,大腸癌死亡に関与しいるとされるが,日本での報告は少ない.我々は2003年度の広島原爆被爆者検診受診者の約8年間の予後調査により,癌死亡,特に消化器癌死亡と血糖コントロールについて検討した.【方法】2003年度被爆者検診受診者男性7727人(年齢中央値71歳,25%tile 65歳-75%tile 75歳),女性12488人(73歳,65-78歳)を対象として,2011年度までの予後について検討した.血糖コントロールの基準としてはHbA1c(NGSP値)を用い,A1c≦5.9を正常群(13279人),6.0から6.4を境界群(4806人),6.5以上を高値群(2130人)とした.解析は「R」にて,2003年度の背景要因を共変量としての生存率解析(Logrank trend検定や層別化Coxモデル)を,またコントロールの状況の生存率への影響をみるため,時間依存性の区分比例ハザードモデルを用いた.その際,高血圧の有無,BMI,eGFR,アルコール歴,喫煙歴,被爆状況,脂質異常の有無についても検討した.また1年以内の死亡症例は癌罹患によるコントロール悪化の可能性があるため,解析より除外した.【結果】約8年間のコホートにおいて,全癌死亡のハザードは正常群,境界群,高値群の順に高く,特に消化器癌死は境界群では1.24倍,高値群では1.50倍,正常群に比較し,そのハザード比が有意に高かった.臓器別の癌死亡では膵臓癌死は境界群,高値群で1.92,2.44の有意なハザード比であった.その他,肝臓癌死は1.10,1.54食道癌死は1.32,1.74,胃癌死は1.13,1.22,大腸死は0.90,1.20のハザード比を示した.持続的なコントロール状況別(時間依存性モデルによる解析)でも全消化器癌死亡や膵臓癌死亡において有意にコントロール不良持続が死亡のハザードに影響していた【結論】血糖コントロールと消化器癌死亡との関連について検討し,全消化器癌,特に膵臓癌による死亡率はHbA1cが高値なほど,またコントロールが持続的に不良なほど高かった. |