セッション情報 口演

大腸 炎症 基礎

タイトル O-246:

IBD合併大腸癌モデルの発生過程における上皮細胞特異的TNFシグナルの解析

演者 鈴木 雅博(東京医科歯科大学消化器病態学講座)
共同演者 永石 宇司(東京医科歯科大学消化器病態学講座), 鬼澤 道夫(東京医科歯科大学消化器病態学講座), 山崎 元美(日本大学産婦人科学), 渡辺 守(東京医科歯科大学消化器病態学講座)
抄録 【目的】炎症性腸疾患(IBD)の長期罹患例は大腸癌を合併することが知られている.以前に我々は炎症反応の遷延化にともなう大腸上皮細胞に局在するTNF受容体(TNFR)の特異的な発現調節を報告したが,IBD合併大腸癌(colitis-associated cancer,CAC)の発生過程におけるその生物学的意義は明確でない.そこでマウス大腸上皮細胞株と実験CACモデルを用いて,この調節にともなう上皮細胞への影響を解析した.【方法と結果】マウス大腸上皮由来細胞株CT26およびMOC1をリコンビナント(r)IFN-γとrTNFで刺激すると,濃度依存的なNF-κBの活性化とともにTNFR2およびミオシン軽鎖(MLC)のリン酸化酵素(MLCK)の発現が特異的に上昇した.このMLCK発現はTNFR2に対する特異的siRNAの導入によって抑制された.抗TNF抗体MP6-XT22やMLCK阻害剤ML-7の存在下では,MOC1細胞におけるMLCのリン酸化が抑制されるとともに密着結合(TJ)の崩壊が観察された.AOMとDSSを投与してC57BL/6JマウスにCACを誘発すると,炎症によって上皮細胞のTNFR2発現とNF-κB活性が上昇し,非腫瘍部に比較して腫瘍部ではこれがさらに誘導されるとともにMLCKの発現も上昇した.MP6-XT22やML-7の投与によってDSS腸炎は有意には改善されないものの,上皮細胞におけるNF-κB活性やTNFR2,MLCK発現の上昇は抑制されるとともにTJの崩壊およびCACの発生が有意に抑制された.【結論】慢性大腸炎モデルにおける上皮細胞内のTNFR2発現上昇は,MLCK発現とTJ崩壊を誘導しCAC発現の促進に深く関与すると推測される.IBDに合併する大腸癌の発生予防に関連して,MLCKはTNFとともに新たな治療標的となり得る可能性が示唆された.
索引用語