抄録 |
【背景と目的】大腸では絶食-再摂食の周期にともなって,細胞回転の停止と過増殖を繰り返している.我々はこれまでに,マウス大腸における再摂食時の上皮細胞回転促進は,常在菌で再摂食時にのみ著増するL. Murinusが食物繊維を分解した結果,大腸内で産生される乳酸に依存していることを報告してきた.また,絶食-再摂食と発癌物質への暴露のタイミングを変化させることにより感受性も大きく変えられることも示した(Nat Commun;4:1654, 2013).本研究では適切な絶食期間をもうけ大腸上皮細胞回転を修飾することで,炎症の治癒促進に応用できるかどうかを検証した.【方法】マウスに2%デキストラン硫酸(DSS)をday0よりday 5まで飲水内投与した.AL(fed ad lib)群には,実験期間を通じて通常食CE-2を自由摂取させた.CE-2群ではday 7-8まで36時間の絶食としその後CE-2を再摂食させた.ORS群には同様に絶食後,Oral rehydration solutionの粉末(glucoseと塩の混合物)を再摂食させた.Day 9に組織を採取し解析を行った.【結果】体重変化には3群の間に有意差は認められなかったが,CE群はORS群より大腸長が長く,組織所見でも潰瘍形成が軽度であり,単位腸管あたりのクリプト数で比較した上皮細胞の修復は他群に比べ有意に高かった.大腸組織内でのIL-1beta,IL-17,IL-6はnaiveに比較してAL群とORS群で増加していたが,CE-2群ではAL群よりも顕著に低くナイーブマウスに近いレベルであった.【結論】強制絶食期間をもうけることだけで,炎症を緩和することが可能であった.栄養シグナルの低下による炎症の抑制と,再摂食時の上皮細胞増殖による修復の更新の両方のメカニズムが考えられる. |