セッション情報 ポスター

膵 良性腫瘍

タイトル P-172:

オクトレオチド投与を行い良好な術前血糖コントロールを得たインスリノーマの1例

演者 今村 一歩(長崎県五島中央病院外科)
共同演者 橋本 敏章(長崎県五島中央病院外科), 山口 泉(長崎県五島中央病院外科), 古井 純一郎(長崎県五島中央病院外科)
抄録 症例は78歳の女性.既往歴に8年前からの認知症.意識消失発作のため近医へ救急搬送され,血糖29mg/dlと低血糖による意識障害と診断.入院後精査で空腹時血糖25mg/dl,血漿インスリン濃度39.5μU/mlとFajans指数1.58(基準値:0.3以下)を認め,インスリノーマ疑いにて当科紹介.入院時現症は身長152.5cm,体重56.5Kg,BMI24.29Kg/m2,身体所見に特記事項はなし.血算・生化学検査ではHbA1c 3.5%と基準値を下回っていた.造影CTにて膵鉤部に17mmの濃染される膵腫瘍を指摘された.全身精査では下垂体,副甲状腺含め他部位に明らかな腫瘍性病変は認めず.局在診断のため選択的カルシウム注入試験を施行したところ,上腸間膜動脈刺激60秒後のインスリン値が608μU/ml(前値:23.1μU/ml)と最高値を示した.単発性の膵鉤部インスリノーマ,胆石症,肝嚢胞(S2)の術前診断で膵腫瘍核出術,胆嚢摘出術,肝嚢胞開窓術を予定した.認知症のため補液・経口によるブドウ糖摂取が困難であり,術前低血糖予防でオクトレオチド50μg/body/日を夕方のみに皮下注射行うことで血糖コントロールを試みた.投与後の血糖値は,朝154mg/dl,昼156 mg/dl,夜211 mg/dl,就寝時228mg/dlと推移し,低血糖症状を起こすことなく良好な術前血糖コントロールを行い手術施行した.切除標本肉眼所見で腫瘍は境界明瞭,割面は淡黄色であった.病理組織学的診断はWell differentiated endocrine tumor(insulinoma compatible)であり,異常核分裂像とKi-67 indexは2%以下と新WHO分類ではNET G1の診断であった.術後の経過は良好で,空腹時血糖値・インスリン値は正常範囲内へと復した.膵内分泌腫瘍は比較的まれな疾患であり,なかでもインスリノーマはインスリンの自律性過剰分泌をきたし低血糖による種々の症状を引き起こす.自験例のように補液・経口によるブドウ糖摂取が困難である場合にオクトレオチドの皮下注射は簡便であり,術前血糖コントロールに有用と思われた.
索引用語