セッション情報 消化器病学会特別企画1(消化器病学会)

日本消化器病学会ガイドライン(大腸ポリープ、機能性消化管障害、NAFLD/NASH)中間報告

タイトル 消特企1-基調講演2:

新しいGRADEシステムへの期待と問題点

演者 中山 健夫(京都大大学院・健康情報学)
共同演者
抄録 近年、医療の各領域で根拠に基づく医療(EBM)の考え方、さらにEBMを用いた診療ガイドラインが普及しつつある。診療ガイドラインは米国医学研究所によると「特定の臨床状況のもとで、臨床家と患者の意思決定を支援する目的で、系統的に作成された文書」(1990)であり、「エビデンスのシステマティック・レビューに基づき、患者ケアの最適化を目的とする推奨を含む文書」(2011)である。診療ガイドラインの作成法としては、EBMの精緻な方法論を基盤としたGRADE システム(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation、BMJ 2004)が注目されている。
 GRADE システムでは、(重大な)アウトカムごとに個々のエビデンスの「バイアスのリスク」を評価し、さらに複数のエビデンスからなるエビデンスの総体(body of evidence)の質を評価する。GRADEシステムでは、従来の一般的なEBMの枠組みでは最も高いレベルとされてきたランダム化比較試験によるエビデンスでも”very low”、低いとされてきた観察研究のエビデンスでも”high”と評価され得る。またエビデンスの評価と推奨度の決定を独立させ、「高い質のエビデンスに基づく低い推奨」や「低い質のエビデンスに基づく高い推奨」を導くことができる。推奨度は「強い・弱い」×「する/しない」の計4段階とし、1.重大なアウトカムに関するエビデンスの質 に加え、2.利益と不利益のバランス 3.患者の価値観や好み 4.コストや資源の利用 を考慮する。推奨度の決定は専門医だけではなく、医療を受ける立場の人々も交えたパネルによる総意形成が重視されている。
 GRADEシステムはいくつかの革新的な視点を取り入れたチャレンジと言える。しかし前提となるシステマティック・レビューを実施・活用できる人材の育成、害とコストの評価法の整備、患者・家族との協働の在り方など検討を要する課題が多い。講演では消化器病領域のシステマティック・レビューの例を用いて、GRADEシステムによる推奨決定の流れの一部を試行し、今後の議論に向けた課題を整理したいと考えている。
索引用語 診療ガイドライン, 推奨